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mixiのプライベートグラフ戦略が間違っていたことが、LINEによって証明された仮説

徳力さんがmixiとFacebookとLINEのソーシャルグラフについてブログを書いてた

Facebookの人間関係は実名と言うこともあり平均150~200人ぐらいで比較的パブリックな性質が含まれるのに対し、mixiの人間関係は40人程度で近しい友達が中心のプライベートグラフである、というのは、実際の日本におけるFacebookの拡がりを見ていると興味深い指摘でした。
それから一年。
個人的には、今、日本におけるプライベートグラフの重要性を証明しつつあるのは、LINEであると感じています。

mixiのプライベートグラフ戦略が正しかったということが、LINEによって証明されたという仮説 @tokuriki

ということだけど、mixiとLINEのソーシャルグラフを同一に見るのはどうだろう?

mixiとLINEのソーシャルグラフは、たまたまグラフの規模が同じ程度であるというだけで、戦略としては真逆ではないかとおもう。LINEが成功したということは、つまり「mixiの失敗」を意味しているんじゃないだろうか。

ソーシャルグラフとは何だったか

そもそもソーシャルっていうのは、どこかの誰かが言ってることより、あなたが実生活でよく知ってる人のほうが信用できるよね、っていうコンセプトで出来ている。それをさらにいいともイズム(友達の友達はみな友達だ)でもって拡張し、自分を中心に交友関係を網目のように捉えなおしたものがソーシャルグラフである。

そして、そのソーシャルグラフ上を流れてきた情報に対して、自分の信用できる友達がシェアしてきた友達の友達の発言もやはり信用できそうだ、という信頼関係の鎖でもってコンテンツを流通させようというのが「ソーシャルメディア」と呼ばれているものだ。ここまでが基本。

「ソーシャル」を徹底させることは難しい

だけど、その「あなたが実生活でよく知ってる人とだけ友達になる」ことをユーザーに徹底されることはすごい難しかった。

なぜなら「友達になる」サイトというのは、対極に「まったく知らない人と新しく友達になる」ためのサイトが存在していて、気を抜くとソーシャルグラフに立脚したWebサービス(早い話がSNS)は、Friendsterやorkutのようにけっきょく出会い系になっちゃうか、GREEのような匿名サイトになってしまう(GREEは意図的にその道を選んだんだけど)。

Facebookの戦略

そんな難問を、Facebookは「実名」というシバリを持ち出すことでクリアにした。

つまりFacebookが利用者に発しているメッセージは、「ここでは、あなたの実名を知ってる人とだけ、交流してください」ということで、これを頑なに金科玉条とすることで、Facebookは「実際に知ってて信用できる人とつながる」というSNSのコンセプトを保っている。たまにFacebookに対する批判で「どこの誰ともわからない不特定多数に実名を晒して交流するなんて信じられない」といったたぐいのものがあるが、これは考え方が逆なのであって「知らないひととは交流するな」というようなことはFacebookのヘルプにも明記されている。

mixiの戦略

で、mixiもよく言われるように初期はかなり実名性が高かった。そして、そのころのmixiでは、以前からの知り合いが「友達の友達」を介して出会い直したといった、理想的なソーシャルグラフの形成が行われていた。

しかし、2006年ごろmixiで本名を検索されて個人情報が流出する(というよりネットのほかの場所で話題となっている個人名をmixiで検索することで、より詳細な個人情報が知られてしまう)という事象が相次ぎ、mixiは対策として、実名を公表しないよう告知するという手を打った。

いまから考えると、これは一歩だけ匿名に退却した形になっており、つまりFacebookとGREEの中間に位置することになった。それ以降はメディアで「匿名性のあるSNS」と紹介される遠因ともなっており、後知恵として言うなら、プライバシーコントロールの充実と徹底に労を割き、ゆるい実名性は維持すべきだったのかもしれない。

LINEの戦略

一方で、LINEがソーシャルグラフ形成で採用している手法は、Facebookよりさらに先進的だ。

LINEでは、携帯電話の電話帳をベースにソーシャルグラフが形成される。検索やユーザーネームやグループでのつながりも作れるので絶対的ではないが、基本的に「携帯電話の電話帳」に載っている名前をもとにしたグラフを作るようユーザーを誘導している。

実は、携帯電話の電話帳、というか「日常的に携帯電話をかけ合うくらいの距離感」が理想的なソーシャルグラフであることは知られていて、Facebookも友達申請/承認については「携帯電話の電話番号を教えるくらいの慎重さ」で行うように(だれかれかまわず申請するな)と主張してるし、Pathという革新的なサービス以降、Facebookを含めて携帯電話(スマートフォン)によるよりより小さなソーシャルグラフを意識したサービスづくりがされる流れになっていた。

LINEが革命的だったのは、携帯電話を意識するどころではなく、それのみとする(基本的にほかの選択肢を認めない)ところまで徹底させたことにある。Facebookのような「実名を知っている」という抽象的なシバリにとどまらず、もっと具体的に「携帯電話の電話帳に登録されているひととだけ交流してください」と言うことで、ソーシャルグラフの実名性を担保させたのだ。

つまり「実社会の交流に基づいたソーシャルグラフ形成」において、LINEは、Facebookよりさらに一歩突っ込んだ形となっている。Facebook基準で一歩撤退した形となっているmixiと並べるなら、実に対照的だといえるだろう。

mixiとLINE

SNSにおいて匿名性は不可逆であり、いったん少しでも匿名に振ったなら、改めて実名のほうに振り直すことは難しい(規約を改定してユーザーに強要することはできるが、誰がそれに唯々諾々と従うだろうか?)。mixiで、またふたたびLINEやFacebookのようなソーシャルグラフが形成されるということはなかなか考えにくいのではないだろうか。

サービス ソーシャルグラフの特徴(上ほど匿名性が低い)
LINE 携帯電話の電話帳に登録している人と交流する
Facebook 自分の実名(登録名)を知っている人と交流する
mixi なんとなく知ってそうな人とハンドルネームで交流する*1
GREE 同じゲームを楽しむ仲間などと交流する

では、mixiがオワコンかというとまったくそんなことはなく、そして同じようにmixiはオワコンじゃないと感じているひとと話をしてていつも同じ結論に達するのは「コミュはまだ活きてる」ということだ(もちろんコミュによるが、活発でよく管理されているコミュはかなりスゴイ)。ネットでも、mixiの起死回生はコミュ(インタレストグラフ)の活用にあるのではないかという議論が2011年末にされている。

しかし、LINEがこれほどブレイクし、そして本格的にSNS化することを発表している以上、この論も進展させるには期を逸している観がなきにしもあらず。もしLINEがmixiにトドメを(あ、だれか来たようなので続きは後ほど

追記 (2012.07.22)

1日経って読みなおしてみて、必要以上にmixiにきつい書き方になってしまったのではないかと申しわけなくおもっている。

あくまでSNS各社の違いをソーシャルグラフの面から考察する試論であって、実際にはひとつのサービスでもさまざまな利用者・機能があり、こんなに単純化されたものではないでしょう。mixiの今後の行き方がコミュではないかというのも、先日来かなり話題になりまた徳力さんのエントリの導入にもなった「」とも期せず論を同じくし、衆目が一致するとはこのことかの観もありますが、それだってWebサービスについてブログを書くようなユーザー視点ではそういった観測範囲になるだけかもしれず、なんだかんだ言いつつ毎日ログインしてるとユーザーがたくさんいてポテンシャルの高さを実感させられるわけで、LINEとはサービスの複雑さや蓄積も違うわけですし、頑張ってください期待しています、というツンデレ的な蛇足をもうし添えておきます。

追記2 (2012.07.22)

LINEの匿名性が低い(あるいは実名性が高い)と書いたことにいくつかツッコミをいただいてますが、確かに匿名性/実名性というのはこの場合にはズレてる気もします。もうちょっと書き方を考えるべきだったのかもしれない。LINEで担保されるのは、Facebookが要求しているような実名というより、実在するその人が確実にそこにいるといったニュアンス、たとえば本人性がウェブとリアルで一致するといった書き方もできたかもしれない(いい用語があったら教えてください)。

*1:この欄を書くために考えてみたけど、mixiのいまのソーシャルグラフってそれだけを説明しようとするとかなり不思議な感じになってる。実名と匿名のヌエ的ななにかで、友達をあまり増やしにくい感じ。そこが「プライベート」戦略なのかな?