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表参道で働くシニアのブログ

1990年代の日本のロックアンセム(1991年から2001年の15曲)そして1996年について

少し前に、80年代の日本のロックについて書いた。それはおそらく少年(ティーンエイジャー)の時代だったのじゃないか。そして、ロックも大人になって、90年代がやってきた。だから90年代の日本のロックについて考えてみようとおもう。

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90年代以降の日本のロックには、二面性がある。と思う。ひとつはメジャーシーンへの浸透。80年代末のバンドブームを経て、ロックバンドは普通の存在になった。テレビの音楽番組に出ることも珍しくなくなり、その代わりにチャートミュージックにも違和感なく、ロック的なサウンドやファッションが取り入れられていった。

一方で、ロックはオルタナティブな音楽であるというスタンスもある。売れる音楽をよしとしない、インディペントである矜持。大人になんかわってたまるものか、そういう十代的な啖呵が今なお有効かはわからないけれど、少なくとも当時はまだ支持されていたとおもう。

ここではその両面を視野に入れて、その両方から支持されるような音楽。ロック的な矜持もありつつ、チャートミュージックをメインに聞いてるひとの耳にも届いたであろう楽曲を、90年代の日本のロックアンセムとしてみたい。

ひとつだけ断っておくなら「あまりにも売れすぎているロックバンド」は端っから選考の対象外とした。だから、B'zとミスチルとグレイは出てきません。すみません。というのは、そのあたりを入れようとすると、単に「90年代のヒット曲」をリストアップしてるみたいになってしまったので……。

そのあたりも含めて、こういう主語が大きな記事の感想は、往々にして「XXが入ってない」であるとか「XXを入れるな」といった、誰にとっても「もやもやする」ものになりがちなんだけど、できれば「違うよね」と思った方にも「これこそ90年代の日本のロック」的なリストを発表してもらえると嬉しいです。

ということで前置きが長くなりすぎたけど、1991年から2001年までの日本のロックから、同世代に広く聞かれたり次世代に影響を与えたりしたであろう15曲を選んでみました。まずは正真正銘の大人(三十代)のロックからです。

1. イージュー★ライダー / 奥田民生 (1996)

音楽業界の符牒でE(イー)は3のことらしい。つまり1965年生まれで30(イーじゅう)台に突入したことと、映画「イージーライダー」をかけて、奥田民生らしくちょっとした洒落というスタンスを取ってはいるが、内容は「自由」とか「青春」を歌うことがすっかり恥ずかしくなってしまった時代に、あえて正面から、しかし慎重に、踏み込みすぎないよう「きっとそういうこと」だと絶妙な表現で歌われる。これがとても90年代っぽかった。そういう態度こそが「僕らの自由」だという気持ちがした。


2. 日曜日よりの使者 / THE HIGH-LOWS (1995)

相変わらず甲本ヒロトの歌詞は何を歌っているのかよくわからないけれど、楽しさと寂しさが混在した日曜日という存在。午前中のウキウキ感と、笑点・ちびまる子ちゃん・サザエさんとともに漂ってくる寂寥感。それが7日おきに繰り返し繰り返し訪れる。未来永劫の希望。日常の中に未来があった。

だから、ホンダのCMに使われたのかもしれない。


3. チェリー / スピッツ (1996)

いわゆるロック好きには、売れてるというだけで嫌悪感を示すひとがいる。しかし、何事にも例外がある。みんな「愛してるの響きだけで」とシンガロンしたいはずだ。エレカシとミスチルとスピッツの対バンライブが春にあって、見に行ったエレカシファンが「エレファントカシマシさんって、さん付けしてる櫻井よりも、エレカシ呼びしてる草野のほうが信じられる」って言ってて、人それぞれ立ち位置ってものはあるにせよ、そういうところだよなというわかりみがあった。


4. 今夜はブギー・バック / スチャダラパー+小沢健二 (1994)

とてもとてもカバーバージョンが多い曲である。しかし、スチャアニでもないのに「オレ、スチャアニ」とラップするのはなかなかに厳しいものがあって、ラップパートを省いちゃってるバージョンも多々ある。そんななか、ダントツに早いダウナーなアンサーソングでちゃんとオリジナルなラップを当てたECDはやっぱすごい。この曲でロックし続けるのさ。

でもって、こういうビデオが作られるくらいには時代のアンセムってことなんだろう。


5. 接吻 kiss / ORIGINAL LOVE (1993)

カバーバージョンの多さではこちらも人後に落ちない、渋谷系を代表するヒット曲。田島貴男がオリジナルラヴとしてまだこの曲をバリバリに歌ってるというのが良い。90年代初頭のバブルの香りもありつつ、ブラックというよりはブルーアイドなソウルミュージックであって、シティポップっぽさもあり、流行歌であってスタンダードでもある。ほんとにバランスがいい音楽だなっておもう。


6. 今宵の月のように / エレファント・カシマシ (1997)

売れるために売れる曲を売ることを「セルアウト」といって批判されるものだけど、この曲ほど各方面から諸手を挙げて歓迎されたセルアウトもないだろう。苦節だいたい10年、少し前にレコード会社の契約も切れて毎年恒例の日比谷野音でも空席が目立っていたバンドが、移籍して起死回生。この曲で完全にブレイク。ともかく、冒頭の「くだらねえとつぶやいて醒めたツラして歩く」っていうひしゃげたおっさんみてえはフレーズは、この人にしか吐き出せない。


7. 透明少女 / ナンバーガール (1999)

2000年代以降のロックの格好よさって、けっこうな部分がナンバガが日本語に翻訳してくれたオルタナ・グランジ感にあるんではないだろうか。ササクレだった音世界と、中身は乙女なんじゃねえのかという詩情。メガネのギターボーカルというのも、文学青年っぽさマシマシであった。関係ないけど、イースタンユースのライブ終了後にクアトロのフロアの真ん中に中原中也の詩集が落ちてるのを見かけたことがある。


8. 東京少年 / GOING STEADY (2001)

2分くらいのパンクナンバーというイメージだけど実は5分近くあって、DJイベントとかでかかると、イントロから勢いよく踊りだしたのはいいが途中で息切れしてるおじさんを見かけることがある。熱い青春パンクの代表曲だけど、前向きで頑張るそれではなく、風呂なし四畳半のアパートででマイナー・スレットとブルーハーツばかり聞いてますみたいな童貞臭さがちゃんとある。


9. 冬のセーター / BLANKEY JET CITY (1991)

正直にいうと僕はブランキーというか浅井健一の良い聞き手ではないので、この曲でよかったのかな? とかなり不安なところはある。というか、ほぼファーストインパクトで選んでしまった。核弾頭とモデルガンと「おばあさんが編んでくれたセーター」が共存する不思議さ、というか不気味さ、というか無邪気さというか。80年代の記事で、70年代のキャロルから80年代のBOØWYにつながる「不良」の音楽と書いたけど、90年代はなんといってもこの人達だろう。


10. 本能 / 椎名林檎 (1999)

ナース服を着た美人が目の前のガラスを割るというミュージックビデオのインパクトが、扇情的な歌詞のインパクトと相まってただ者ならぬ存在感。気にせざるを得ないパワーがある。このシングルで「約束はいらないわ」と突き放しておいて、次のリリースでは「ずっとずっとずっとギュッとして」と迫る。極端すぎるような振り幅だけど、どっちの関係もなにかがおかしい。

というシングル曲を選んだのだけど、やっぱりグレッチで殴ってもらうべきかとずっと悩んでるので合わせて貼っておきます。


11. 世界の終わり / THEE MICHELLE GUN ELEPHANT (1996)

このバンドのことをどう書いていいものか。黒のモッズスーツでキメたクールでスタイリッシュなバンドであり、ガレージにこだわったサウンドを追求したストイックなバンドであり、本来的なロックンロールを熱く鳴らすバンドであり、とにかくみんな憧れたバンドだった。サウンドにも世界観にも。日常と紙一重の静かな狂気が、あのチバの声でもって放り出されるように、そこらじゅうに転がっていく。


12. 陽はまたのぼりくりかえす / Dragon Ash (1998)

ラップとロックの融合、いわゆるミクスチャーロックというやつを日本に翻訳してかっこよくやるってのを、普通の男の子たちにもわかるようにやってみせたのは、やはりこのバンドから始まったんじゃなかっただろうか。とても無邪気で不良っぽく、前向きでありながらナイーブさも感じさせる。

とはいえ、ドラゴンアッシュと聞いて誰もが思い浮かべるのは、ジブラのあのフレーズだよなあ。東京代表トップランカーだ。


13. STAY GOLD / Hi-STANDARD (1999)

一緒にイベントをやってた友人がいつもピークタイムで「モッシュアンダーザレインボー」をかけてて、ハイスタのアンセムといえばモッシュアンダーザレインボーだなーって印象が自分の中では強かったんだけど、この原稿を知り合いに見せたら「ステイゴールドじゃないんですか?」って言われて、まあやっぱそうだよなってなった。インディペンデントでロックし続けることの楽しさと厳しさ、辛さと喜びのすべてがこのバンドにある。

ということで、こっちも貼っておきます。ちなみに自分は「はじめてのチュウ」ばかりかけてました……。


14. 小さな恋のうた / MONGOL800 (2001)

カバーされることが多いのがアンセムってさっき書いたけど、そういう意味では2000年代以降、いっちゃんカバーされてるって意味で、ナンバーワンのロックアンセムはこの曲なんではないだろうか。パンクロックとは思えない素直で正直なラブソング。でも、であるからこそ、この曲がパンクとして演奏されることに意味があるような気がしてならない。いいメロディで泣ける歌詞だけど、それをシンガロンしながらモッシュしてこそというか。


15. 東京 / くるり (1998)

このまでのリストを見返してなんか落ちてるな……で気がついたのがこの曲。メガネのギターボーカルが醸し出す文学っぽさにもバリエーションがある。くるりはまさにこの曲を引っさげて京都から東京の街に出てきたわけで、これそのものが「わけのわからないこと」なのかと思ったりした。情緒感ある歌をオルタナなサウンドに乗せるのって、このあたりから日本でも広まってきたようなきがする。


one more thing. 虹 / 電気グルーヴ (1995)

「ロックじゃねえよ」という声には「でもほらロックって名前に入った雑誌で連載もってるし……」くらいしか返す言葉がないのだけれど、やっぱり「日本の90年代のアンセム」からこの曲を落とすことはどうしてもできない。カーテンがなくても、花瓶がなくても。


まとめ

ということで全16曲。最後に目次をつけておきます。

いろいろ抜け落ちてるシーンもあるし、これをもって1990年代の日本のロックシーンを総括できるなんてものではないけれど、これを踏み台にして「あなたの90年代はどんなだったか?」を教えてもらえると嬉しいです。

自分なりの別解はもう書いてたりするけど。

ちなみに90年代といいながら2001年が2曲あるのは、そのあたりまで自分のなかでは90年代っぽさがあったから。とはいえ、壮絶に90年代っぽいフラカン「深夜高速」は、実のところ2004年だったのでさすがに入れなかった。

おまけ、1996年は特別な年だった説

ところで、このリストを作ってるときに「1996年ってとんでもない年だったんだな」っておもった。

だって「チェリー」に「イージュー★ライダー」に「世界の終わり」がぜんぶ同じ年のリリースってなんかすごくない?

ほかにも、真心ブラザーズ「拝啓ジョン・レノン」、ウルフルズ「バンザイ」あたりが1996年だし、なんといってもフィッシュマンズが「LONG SEASON」をリリースしてる。サニーデイ・サービスの名盤『東京』も1996年。

それぞれのバンドの楽曲でも、キャリアを代表するような代表曲だったり、これまでになかったような世界観を提示するような曲が、なぜかこの年あたりに集中してリリースされてるような印象。

ほかに、PUFFY「アジアの純真」、JUDY AND MARY「そばかす」、UA「情熱」、川本真琴「愛の才能」、YEN TOWN BAND「Swallowtail Butterfly」も1996年。

これって何か要因があるのだろうか? バンドブーム後の揺り戻し的なタイアップブームが終わりかけて、TKプロデュース全盛期に移る端境期的なタイミングだったとかなんとか。

ということで最後に1996年リリースをもう1曲だけ。HUSKING BEE「WALK」