ひょっとしたらとんでもない場面に行き当たったのかもしれない。そうでないことを祈る。
一席目の「権兵衛狸」はいまひとつ。キャラも立ってて上手いのだがのどの調子が悪い。
二席目は「富久(とみきゅう)」。なけなしの一分で富くじを買った太鼓持ちの久が、火事の掛け持ちにあって右往左往した挙句に千両の当たり富で地獄と天国を味わう話。さきほどよりも落ち着いているようで、のどは本調子でないもののたっぷりと聞かせる。
と、三分の二くらいのところで突然に噺を打ち切り、客に「一分待ってくれ」と言ってなんと高座をいったん降りてしまった。どうも本当に喉の調子が最悪のようだ。しばらくして戻ってきて「勉強しなおしてまいります」と残して高座を降りてしまった。
……りしないところが談志の談志たるゆえんであって、体の不調を気力で補うかの熱演で、富の発表の場面では「宿屋の富」のくすぐりも大いに交えつつ、運命に翻弄される久を見事に演じ切ってしまった。途中のアクシデントさえなければ十分に満足だったはず。
しかし落語家が噺の途中で続けられなくて降りてしまうなんてあってはならないことで、客にあるがままさらけ出してしまう談志は自ら「独演会のできる状態じゃない」と言い緞帳があがってから「顔をよく見ておいてくれ」などとこれが本当に最後の独演会かの言い方をする。隣の席の女性の一人客なんか涙ぐんじゃってるし、客もなんか暖かい。
オレはオレで会場を出た後、史上最強に取り込み中だったタグさんに電話してしまう。
それはいつか来るはずのことなのだけど今日じゃなくったっていいじゃねぇかと思う。ロレツが回なかったり噺が出てこなくなったりループしたりしたわけじゃなインだし、むしろ噺そのものの出来は悪くない。そこいらの噺家より格段に上手いだけに口惜しい。
これが「そういうこともあったねえ」という笑い話で終わってくれることを祈りたい。
家元、ガンバレー。談志がついてるじゃねぇか(チラシの口上より)。