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表参道で働くシニアのブログ

パンクスとITミュージック

MANBA69 NAMBLOGの「11.29 15:33 ITミュージック戦争」*1

を読んで、読んでというか、あまり推敲を重ねずに思いついたことを一気呵成に叩きつけたことがうかがい知れる文章で、前後の文のつながりすらからしてかなり謎なので、文脈とか全体として言いたいこととか、そもそも誰に向けて書かれているのか、リスナーの一部のひと(一部の人メソッド)なのか「電気メーカー」なのかすらよくは読み取れないんですけど、とにかく読んで、なんか寂しく、悲しい気分になった。
そして、実験さんの「ユルス - ITミュージック戦争」を読んで、今年来日したときのイアン・マッケイのインタビューを思い出した。

イアン・マッケイ インタビューより

Interviews -The Evens-(引用箇所は4ページ目ですが、ぜひ全部目を通してください)

デジタル・メディアの発達に伴って複製技術が発達し、それをリスナーが共有することでアーティストの利益が損なわれることを恐れる人は多くいるようですが、あなた個人の見解を改めて聞かせてください。

Ian:僕は大した問題じゃないと思ってる。だって僕は、金を稼ぐために曲を作ってるわけじゃないからね。人々に聴いてもらうために曲を作ってるんだ。だから、もし人々が、複製したものを聴きたいと思うなら、それで構わないと思ってる。

最終的に、もし全てが現在の方向へシフトするなら、誰もレコードを買わなくなるだろうね。何でも無料で手に入るわけだし。そうすると時代が逆戻りして、自分の人生にアートが必要なら――誰でも人生にアートを取り入れるべきだと思うけど――アーティストをサポートしなければならない、という状況になると思う。

“芸術の擁護者”と言うと、ビル・ゲイツみたいな、交響楽団に多額の寄付ができる人をイメージするかも知れない。でも実際には、CDを買うのに10ドル払う人だって芸術の擁護者だよ。直接的にアートをサポートするんだからね。

僕自身を例に取ってみると、ネット時代以前には、アルバムを出せば売れたのは1000枚くらいだった。今では、仮に50,000人が僕のアルバムを無料でダウンロードしたとする。でも、そのうち10%が、実際にレコードを手元に置きたくて買うかも知れない。

僕は楽観視してるよ。アーティストにメリットはあると思う。まぁ、そもそもあまり気にはしてないけどね。僕が大学で著作権について話す時は、ビジネスに絡めた話じゃなくて、音楽をサポートするっていう観点から話してるんだ。

レコード・レーベルの経営者に対してだって、僕にはこう言う資格があると思う。「音楽業界・レーベルが大打撃を受けて滅亡したとしても、僕は困らないよ」ってね。

Ian:むしろ喜ばしいことだね。この業界は過去100年間、レコード音楽を事実上独占してきた。そして、僕に言わせれば、音楽のスピリットや意志に対して、非常に深刻なダメージを与えてきた。

音楽は、誰もが手に入れられて、誰もが作れるものだ。フリーなんだ。音楽を売ることは出来ない。CDやテープやアナログ盤は売ることが出来るけどね。MP3やポスターやTシャツも売ることも出来る。そういうのはみんな“商品”だから。

でも音楽は売ることが出来ないものだ。空気中に漂っているものなんだから。ボトル入りの水みたいなものだよ。川を流れる水はタダだけど、ボトルに詰めた水は売ることが出来る。

(snip)

インタビュー中にある「大学で著作権について話す時」というのは、去年の春(2004年4月)にアメリカン大学で行われた音楽業界(RIAAなど)とP2P業界の討論会のことで、日本語に翻訳されたレポがITmediaのサイトで読めます。

ITミュージック・キル・ザ・パンクロック・スター?

このイアンのインタビューは「まさに80年代以降のUSパンクのDIY精神ここにあり」というべきものになっていると思う。あまりに理想主義的すぎる気もするけど、その考え方と強い意志には感動させられる。前にはあまりに感動したのでエントリのタイトルに引用したけど「音楽を売ることは出来ない」という言葉はすごいと思う。

実験さんはパンクについて

ちなみに……パンクの人たちって昔から、それが明確に何だかわかっていなくても「とにかく自分たちの権利(的なもの)を守りたい」ってことにこだわって、体制の抑圧や規制とぶつかってきた人たちなんじゃなかったでしたっけ。

って書いてるけど、確かにパンクスは体制や規制と衝突しがちだ。でも、けっして防戦一方なわけじゃない。むしろ体制から離れてオルタネートな立ち位置から積極的に自主自立で攻めていくのがパンクスのありようだと思う(そしてハイスタは間違いなく日本で一番そういうことを体現したバンドだったはずなんだけど……)。

USの自主レーベルのサイトにいくと、たいていアルバムの試聴用に各CDから1曲くらいフルサイズのMP3を、しかも96kとかいうせこい音質じゃなく、ちゃんとCD音質で提供していて驚く。とともにすっごい嬉しい。コピーされる/されないというレベルの話ではなって、レーベル自らがリップしたのと同等のMP3を配っている。

しかし、そうやってタダで配った音源を聴いたひとのなかから誰かが気に入ってくれて、CDを買ったり、Tシャツをオーダーしたり、ライブを見に来てくれれば万々歳ということなんだと思う。小さなインディだからこそ、たくさんの既得権を持った流通業界のことを考えることなく、リスナーとネットで直につながって、リスナーに直接音源をばらまき、リスナーが直接CDを注文するという関係が築きやすい。

実際に「Jade Tree」や「Polyvinyl」のサイトで直接MP3をダウンロードして何度も繰り返し聴いた挙げ句にCDを買ったバンドはいくつもある。

さらに、USには「Purevolume」という巨大な試聴サイトがあって、これはまだちゃんと使いこなせてないんだけど、エモを中心にしてパンク系の音源が大量に集まっているということでも知られていて、すでにサクセスストーリーもはじまっている。「Daphne Loves Derby」というバンドは、Purevolumeの「レーベル未契約アーティスト(Unsigned Artists)」部門でブッチ切りのダウンロード数を記録して注目され、デビューにこぎ着けたという話だ。

そういうことを考えると、パンクとITミュージックは決して相性の悪いものじゃない、というか根本的に一致するはずのものだと思う。パンクスにこそITミュージックを利用していって欲しい、と思った。

ちなみに日本でも、AudioLeafというインディーズの試聴サイトがあることをつい先日知ったんだけど(今年の夏に出来たみたい)、今後の発展にすごく期待したい。

P.S. 日本のバンドじゃないけど、コレすごいいいよ!

エントリ中に登場したバンドの音源

Evens

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On the Strength of All Convinced

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*1:こういうパーマネントリンクもまともに拾えない掲示板システムを「ブログ」と称するのはホントやめてほしい