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本の価格は、なぜ「税抜き」表示なのか?

本の価格は、なぜ「税抜き」表示なのか | エキサイトニュース

「初めて消費税3%が導入されたとき、価格を変えることに、出版社はみんなすごく苦労したんですよ。それで、税率が5%になる際、『この先、また税率が変わっても影響が出ないように』と、税抜き表示にしたんです」

何に苦労したのか、が書かれてないようだけど、これはつまり「カバーに価格が刷り込まれちゃってる」から。だから消費税率が変わって価格が変わると、カバーを丸ごと刷り直さないといけない。出版社は倉庫に相当な種類の本の在庫をたくさん抱えてるから、その分をぜーんぶ刷り直すとなるとかなりの出費になっちゃう。

以前の消費税率の引き上げ(3%→5%)のときには、価格表示のところだけシール貼りにして誤魔化したケースが多かったみたいだけど、それでもかなりの手間だしお金もかかったはず。シールを貼り直すだけのお金すら工面できなくて、泣く泣く在庫を絶版にしちゃった中小版元もかなりあるそうです。出版社って、大きなところはお金持ってるけど、小さなところはマンションの一室でやってたりするし、そういう小さい規模の版元がすごく多いから、制度が変わって対応しなきゃいけなくなると経営がかなり圧迫されてしまう。

だから消費税が3%になったときにいったん総額表示にしてたけど、5%に上がったときに「もう勘弁してくれ」ってことになった。そのあたりは消費税の総額表示方式が導入されるときの日本書籍出版協会の要望書に現れてます。

消費税導入時には、(略)、出版業界は、他の業種とは比較にならぬ多大な経費を要しました。出版社においては、1社平均3,623万円(日本書籍出版協会調べ。全産業では5万円以下55.9%、1,000万円超0.8%、大蔵省調べ)となり、経費等との兼合いから廃棄または絶版にせざるを得なかった専門書や小部数出版物が多数に上るという由々しき事態が起き、問題となりました。(略)

平成9年の税率変更時には、その後の税率変更に対応するため、書籍等についてそれまでの総額表示から<定価:本体1,000円+税>などの本体価格表示への変更を行い、そのためこの時も前回同様少なからぬ費用を負担しました。

といっても結局は消費税法改正で平成2004年4月から「総額表示方式」が導入されたわけですが、このとき出版業界がどうしたかというと、このエキサイトの記事にあるように

本にはさまっていて、購入の際に書店で抜き取られる「スリップ」(短冊)部分には、税込み価格と両方を書かなければいけないことになっている

ということで、カバーの刷り直しは勘弁してもらって、スリップにだけ総額表示するという折衷案で乗り切ったわけです。スリップはほとんど書店で抜き取られるのであまり見たことないとおもいますが、立ち読みするときなどによく見てみると、カバーは本体価格(税抜き価格)しか書いてないけど、スリップにはちゃんとと定価(消費税込みの総額表示)と両方書いてあるのが確認できると思います。

小売り価格を小売店が決めない商品

本来、この目くらましは、どの業種だってやりたいことのはず。でも、書籍にばかり許されているのは、「永年、ずっとその場にい続ける商品」としての特権なのだろうか。

「永年、ずっとその場にい続ける商品」としてというか、再販制のせいもありますね。

普通にスーパーや量販店に並んでる商品と比べてみればわかるけど、普通の商品は、小売価格は小売店で決めますよね。こっちの家電量販店で買うと200円安いとか、あっちのスーパーは3個100円セールだととか、店によって値段が違うのが普通。普通じゃないのは本とかCDとか、いわゆる再販制度によって再販売価格が維持されてる商品くらいです*1

スーパーは自分の店で販売価格を決めるから、消費税率が変わったりしても、自分の店で値上げするかどうか決めて、値上げするならあのガッチャンガッチャンとラベル貼る器械で値札を貼り直していけばいいわけです。仕入れすぎて売れ残ったら値下げするとか「50円引き」シール貼るとか。

でも書籍は再販制度なので、定価がそのまま小売価格になる。ということで、小売店(書店)がガッチャンガッチャンと値札を貼り直したりすることはなくって、生産者(版元)が小売り価格を決めることができる。だから952円とかに本体価格を設定できるし、それをカバーに刷り込まないといけない。

ずっとい続ける商品

もうひとつ再販制度と関係あるのは、それが書籍の流通にまで絡んでて、再販売価格(小売り価格)を生産者が設定できる代わりに、小売りは好きなようにその商品を返品したり、また改めて再注文したりできる*2

だから一度作って(刷って)それを出荷してしまえば終わりというわけじゃなくって、いっぱい刷っていっぱい宣伝していっぱい出荷しても、数ヶ月後には配本した分の売れ残りがドッと返ってきて悲しい顔になったりすることもある。でもそれを倉庫で寝かしておくうちにドラマ化されたりなんかして、またドッと注文があって出庫がかかるケースもある。よーし売れてる!ってんでどんどん増刷してどんどん出荷すると、そのうち実は飽きられてて、やっぱり数ヶ月後に返品がドッとあったりする。計画生産とかあり得ない世界なわけです。バクチですな。

同じ本が、倉庫から出て、書店に並んで、売れなくて返本されて、再注文があって別の本屋に並んで、また売れなくて……、と延々繰り返すこともあり得るわけで、つまりひとつの商品の寿命がほかの商材に比べるとかなり長い。同じ本屋の店頭に「ずっとい続ける」わけじゃない*3けど、読者が買ってくれるまでのかなり長い期間を、版元―取次―書店という流通経路上のどっかに「ずっとい続ける」息の長い商品なのです(あまり書店版元の倉庫にい続けると断裁されちゃうけどね)。

だから、昔に決めた価格の商品が大量に流通していて、税率の引き上げとか表示制度の改定とかがあると、そういう昔の商品にもすべて出版社は対応しないといけない。

もし再販制じゃなくって版元は売りっ切りでいいなら、価格の書き直しは小売店の仕事になるから、そういう面での版元の労力は軽減されることになります*4し、定価を952円とかに設定してもあまり意味がないわけです(再販制じゃないならたぶん書店で税込み998円とかで値引き販売されるだろうから)。

*1:あとはiPodとかもなぜかどこも割引してないのはなんでだろう〜

*2:もっとも取次とかの関係で注文した本が注文した数だけ届かなかったりというケースもいろいろある

*3:そういう本もあるかもしれないけど、それは書店がこだわりを持って置き続けてるか、在庫管理ができてないかどっちかだろうなあ。普通は売れないとすぐ返品されます

*4:もちろん再販制度のメリット・デメリットはそれだけじゃないから、これをもって再販制が良くないということではないわけですが。念のため