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表参道で働くシニアのブログ

ヒートウェイヴが敗北的な和解、送信可能化権はソニーが所有

このダイアリーでも何度か取り上げていますが、ヒートウェイヴがかつて所属していたソニーミュージック(当時はEPIC SONY)が保有したまま廃盤の憂き目にあっている5枚のアルバムについてiTunesStoreなどでの配信を求めたヒートウェイヴの活動が、ヒートウェイヴ側の主張がほとんど容れられない形で和解を迎えたそうです。

詳細はヒートウェイヴ山口の日記をまずお読みください。

http://www.five-d.co.jp/heatwave/blog/index.php?id=08030003
和解 - ROCK'N ROLL DIARY

【追記】ブログは http://no-regrets.jp/exblog/blog/index.php?id=08030003 に移転しています

「音楽」はだれのものか?/音楽産業の主役はだれか?

山口の日記によると和解内容は以下の通りです。

  1. 一番の争点であった、「送信可能化権」に関しては、ソニーが100%保有していること。
  2. 配信に関する印税率も、新たに決めるのではなく、契約当時の印税率をスライドして適用すること。
  3. 我々がソニー在籍時に残した全54曲の楽曲のうち、25曲を、ソニーは和解成立後30日以内に配信を開始すること。
  4. ソニーは音楽配信の発展状況をふまえ、曲数の追加について検討すること。

「裁判」のビフォー・アフター。変わったところは「3」の部分で、裁判以前に配信されていた10曲弱(それは我々が選んだものではありません)が25曲に増えた、と云うことのみです。その曲目を我々が選ぶことができたと云う点では「微々たる前進」と云えるかもしれません。

この和解のもとになった、山口が「完膚無きまでに敗訴」という4月の判決については、こちらのブログの記事が判決文とその要点をまとめていてわかりやすいです。

「HEAT WAVE対SME」事件〜著作権 送信可能化権確認本訴請求事件・反訴請求事件判決(知的財産裁判例集)〜 - 駒沢公園行政書士事務所日記

山口の日記の中で、ぼくはこの一節に目をひかれます。

そもそも、何故、ミュージシャンは配信と云う新しいメディアで、自らの楽曲をハンドリングさえ出来ないのか? 一体、「権利」とは誰のためにあるのか?

先日、ヒートウェイヴの元*1所属事務所ファイブ・ディーの佐藤剛氏がフリーペーパー「ramblin'」のイベントでramblin'のスタッフと対談していて、2月の「Digital Music Forum」の報告(佐藤さんの代理で行って来たひとの話をもとに)をしてたんですが、その中で日米の音楽業界の違いとしてこういう話がありました。

日本の音楽業界特有の言葉に「(ミュージシャンを)食わせている」というのがあって、日本ではスタッフがアーティストを食わせている。しかしアメリカでは逆で、アーティストがスタッフを食わせている。アーティスト自身が、マネージメントやライツ関係やその他いろいろなスタッフを雇用している。日本のアーティストは、最近問題になったマクドナルドの「雇われ店長」に似たところがある。これを打開するためには、アーティスト自身が経済的に自立できるように、著作隣接権なりいろいろ法制度を整備していかなければならないだろう。

これはその対談を聞きながらメモったノートに書いてあったものをまとめたので、ramblin'のスタッフと佐藤さんの発言が混じっているし、発言に正確ではないので、だいたいのニュアンスとして取ってください*2

日本のアーティストがこれからもレコード会社に「食わされる」存在なのか、自分で自分の楽曲をコントロールして流通までマネージメントできるようになるか、最初の一撃がとりあえず跳ね返された、というところなのでしょうか。

関連エントリ

正直のところ、4月の和解勧告(事実上の前面敗訴)についてはスルーしていまっていて、和解に至ってから取り上げているというのはいささか心苦しくもあるのですが、それでもやはりこの事件、というか挑戦、チャレンジ、山口の熱意、思いを、音楽配信の発展によって曲がり角を迎えた音楽産業の1シーンの記録として、音楽ファンは記憶/記録しておくべきなのだろうと思います。そしてヒートウェイヴはかっこいい。


HEATWAVE / land of music "the Rising"

land of music

land of music

  • アーティスト:HEATWAVE
  • 発売日: 2007/01/24
  • メディア: CD

*1:HEATWAVEのウェブサイトがFIVE-D下にあったので勘違いしましたが、HEATWAVEはいまFIVE-Dを離れ、マネジメントも完全に自分でやっているそうです。指摘を受けたので訂正します。すみません。Do It Yourself!

*2:このときの佐藤さんの報告対談はとても面白かったので、メモ書きでよければ時間があれば別エントリで紹介したいと思います。音楽系ニュースサイトのひととかが取材に行けばかなり面白い記事になりそうです