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表参道で働くシニアのブログ

読んだ - 続・日本の歴史をよみなおす / 網野善彦

面白い! 面白いうえに読みやすい。

続・日本の歴史をよみなおす (ちくまプリマーブックス)

続・日本の歴史をよみなおす (ちくまプリマーブックス)

縄文弥生の古代日本から室町戦国の中世までを独自の史観で語りきった本書が刺激に満ちた名著であることは、松岡正剛さんの千夜千冊に詳しく書かれていますが、よく日本と西洋をくらべて「日本人は農耕民族だから〜」という言い方をされることがあるその「農耕民族」というフレーズがまず大きな誤解であることを指摘し、むしろ多くの日本人が交易と流通に従事した海の民であり、中世日本の津々浦々で商工と金融が営まれていたという歴史像が提示されるわけですけど、網野歴史学をちゃんと読むのはこれがはじめてだったのでどの章のどの文も新鮮で、ひとつひとつ考えさせられながら読み進めました。

1991年に刊行された前編の『日本の歴史をよみなおす (ちくまプリマーブックス)』が神奈川大学での講義をベースにしたもので網野先生の専門である中世の賎民にかなりのページ数を割いているなどやや偏ったところが見られたのに対して、こちらはその5年後に同大を退官してから編集者に語り下ろしたものであるためか、縄文弥生から室町までをある程度は順を追って語っているところもあり、網野史観の入門書としては最適のチョイスでした。

余談的に

ただ自分でも妙だとおもったのは、本書は既存の歴史観・史学上の常識に異を唱え、オルタネイティブな視点を提供しているわけですが、それを読んでいて痛切に感じたのは自分自身に「既存の通説の日本史」に対する基礎知識がかなり欠けているのではないかというところで、なんかこう場面場面は中学の歴史の教科書で読んだたような気もするんですが、それがひとつの歴史の流れとして自分の中に無いということで、大化の改新とか摂関政治とか源平とかそれぞれの出来事は知ってるんだけど、そのつながりが完全に抜け落ちていて、つながった一続きの歴史になっていない。

それに対して網野史学はひとつながりになった歴史像を与えてくれるので、そういった意味でもかなりインパクトが大きい。批判されている通説の基盤が自分のなかではもともと軟弱だったのでカウンターである網野史観がカウンターじゃなくなってて、自分のなかでは初めて味わう一貫した史観になってしまっている。それでいいのかなあ、という(自分に対する)疑問がちょっとある。

あとそれと関連して、日本人はそもそも農耕民族なんかじゃないんだ、という網野史観はいまだに歴史学者の間ではとんでもない異端の学説らしいんだけど(参考→網野善彦氏批判|日月抄ー読書雑感)、むしろ自分の皮膚感覚的なところでは網野史観のほうがピッタリとくる。多くの日本人が交易と流通をやってましたというのも、よくよく考えみりゃ「まあ、そりゃそうだろ」みたいな感じだったりする。知識としては「農耕民族」ってことばも知ってるし、日本人論をぶつときにはそれを借りてきてもっともらしくするわけですが、けっしてそんなまじめ一辺倒でもないよなあっていうのは感覚で持ってる。日本史を勉強しててもなんか他人事におもえるところがあったんだけど、そんな学問と感覚の分断があったからかもしれない。そして網野史観ではじめて、自分の皮膚感覚にマッチした日本(史)の見方をおそわったような気がした。

日本の歴史をよみなおす (全) (ちくま学芸文庫)

日本の歴史をよみなおす (全) (ちくま学芸文庫)