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表参道で働くシニアのブログ

話題の「生誕300年記念 若冲展」に行ってきたので見どころを挙げてみる

上野の東京都美術館でやってる「生誕300年記念 若冲展」を見てきました。

5月24日までと期間も短く、たいへんに混んでいるということで、ゴールデンウィーク中はなおさら全作品をゆったりと見るのは難しそう。せめてこの作品は見ておいたほうがいいかも、という“あたり”をつけて見に行くとよさそうです。下に貼った公式サイトから作品リスト(PDF)をダウンロードして目を通しておくとよいでしょう。


作品リストには展示室の見取り図があります。東京都美術館は受付が地下1階にあり、順路に沿って1階、2階とあがっていきます。見ておいてよかったなーという作品を配置とあわせて紹介していきます。

なんといっても動植綵絵

今回の目玉はなんといっても、クラクラするほど精密な色彩の「動植綵絵(全30幅)」で、本来あわせて相国寺に寄進された「釈迦三尊像」と東京で初めて一同に会します。真ん中のフロア(1階)に、メイン会場らしい大きな楕円形のスペースを囲むように展示されています。空間も広いですがそれだけ混雑しそう。

13羽もの雄鶏が折り重なるようにひしめき合う「群鶏図」は入室して右手、遠近感のないスーパーフラットな怪物感が堪能できます。小学生がよくやってるカードゲームの無敵っぽいスペシャルカードに描いてあるクリーチャーっぽさもあります。

動植綵絵では「池辺群虫図」などでの「小さきもの」への視点と「老松白鳳図」のあまりにも豪華な色彩の対比が見どころです。あとは動植綵絵ばっかりに集中しすぎて釈迦三尊に失礼のないように。

鹿苑寺の障壁画と初公開の孔雀鳳凰図

動植綵絵だけでも十分にお腹いっぱいですが、下のフロアにも上のフロアにも素敵な作品がたくさんあります。

地下階ではまず入場してすぐ、鹿苑寺大書院の障壁画(重要文化財)を見ることができます。華やかな動植綵絵と比べるといささか地味な水墨画ですが、こちらも全50面で構成されるという大きな作品。しかも、書かれたのは動植綵絵と同時期。あとで降りてきて見比べるのも一興でしょう。

「芭蕉叭々鳥図」にあるような、どことなくエキゾチックな雰囲気が好き。所蔵元の公式ページで、それぞれの障壁画の配置を見ることができます。

臨済宗相国寺派 承天閣美術館 名宝紹介 鹿苑寺大書院 障壁画

地下階にはほか、84年ぶりに発見され、今回が初公開となる「孔雀鳳凰図」があります。

若冲の花鳥画80年ぶり発見、傑作「動植綵絵」に類似 - 産経WEST

これを見逃すと次の展示は……、意外と年内に見れるみたいで、所蔵している岡田美術館で秋から展示されるそうです。小涌谷はちょっと遠いですが。

伊藤若冲「孔雀鳳凰図」の展示について | お知らせ | 岡田美術館

このように若冲の作品はいま人気なので、国内の作品ならば意外とあちらこちらで見ることができます。d:id:torino さんが、この若冲ブームの前から「今、観られる若冲」「これから観られる若冲」を更新されている「ハマリごと--伊藤若冲」を、はてなアンテナに入れて更新チェックが基本です。

たとえば今回の混雑ぶりでは、巻物の「菜蟲譜(重要文化財)をじっくりと見るのは難しそうですが、所蔵している吉澤記念美術館が秋の展示で期間限定公開すると書かれています。東武佐野線の終着駅というのもなかなかの小旅行ですが……。

サボテンと鶏と象と鯨と子犬、そしてアレ

動植綵絵を抜けて上のフロア(2階)に進むと、晩年の作品が見られます。天明の大火で被災した後、大阪の西福寺で書いた荒涼とした「蓮池図」と、そして金地も艶やかな「仙人掌群鶏図襖」は仙人掌でサボテンと読む。

モフモフ好きにはたまらない「百犬図」の展示は5月8日まで。

ゴールデンウィーク明けには、あの「果蔬涅槃図(かそねはんず)」に展示替えされるようです。

昨年の「生誕三百年 同い年の天才絵師 若冲と蕪村」展で東京初公開された「象と鯨図屏風」もまた来ています。

そして最後の部屋に、動植綵絵と並んでマスコミでよく取り上げられる「鳥獣花木図屏風」が展示されています。

これとよく似た品が静岡県立美術館にあり、なぜか国内にあるこちらの作品のほうが米国にある作品よりテレビや雑誌で取り上げられる機会が少ないのですが、この3月にはMIHO MUSEUMで競演していたのは知りませんでした。

展覧会 収蔵品展 伊藤若冲《樹花鳥獣図屏風》 GW特別公開!! 静岡県立美術館|Shizuoka Prefectural Museum of Art

この作品にはちょっとした議論があることは押さえておいてもよいでしょう。

いまなぜ伊藤若冲なのか

2006年の東京国立博物館「若冲と江戸絵画」展もかなりのにぎわいだったけど、それから10年、若冲への興味はますます加熱しているように思えます。この始まりが辻惟雄『奇想の系譜』にあることは間違いなく、若冲に興味があるならまず読んでおくべき一冊です。

奇想の系譜 (ちくま学芸文庫)

奇想の系譜 (ちくま学芸文庫)

これがなんと1968年の連載をまとめたものだそうですから、38年前の異端がいまや本流になっているということでしょう。

いったいこの38年でなにが起きたのか? おそらく、あくまで自分を規範に考えるのですが、いま若中に興味があり、こういった展示に足を運ぶ人たちは、そもそも江戸時代の本流である狩野派と見比べて「なるほどこれは奇想だ」と言っているわけではないでしょう。つまり若冲は単独で日本の大衆に発見された。それはおそらくその「色彩」をもってではないでしょうか。印象派を引き合いに出されることもある若冲独特の光や色の表現が、いまの西洋絵画に慣れた日本人の感覚にピッタリときたということなのではないかとおもいます。

江戸時代の絵画表現では若冲と並んで「琳派」がブームで、これもまたそのデザイン性が現代的に評価されたものと考えられるでしょう。2020年のオリンピックエンブレムでも、まさに現代から琳派へのチャレンジとして「なるほど」といったかんじのあった撤回作をはじめ、再募集されて選ばれた候補作品でも江戸の文様や琳派のモチーフを扱ったものが目立ちました(とはいえあの風神雷神には宗達も光琳も苦笑するのではないでしょうか)

そういった端正でデザイン的な琳派と比べると、若冲の絵を見ているとクラクラするようなサイケデリックな感覚があります。辻先生の著書でも並んで扱われている曾我蕭白がわかりやすく時空の歪みを感じさせ、異世界へと誘うようなサイケデリックな表現であるのに比べると、なんというか光学的とでもいうような歪みを感じるのです。写実的に書かれているようで、どこかが歪んでいる。正直なひとがいちばん狂っていたというような。