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表参道で働くシニアのブログ

年が明けて見る《糸杉》にファン・ゴッホの指数関数的な人生を思い、東京国立博物館に初詣した2020年正月

ファン・ゴッホの変化はまるで指数関数のようだ。それが実感できる展覧会だった。

上野の森美術館 - 展示のご案内 - ゴッホ展

2020年が明けて1月2日、正月の穏やかな上野にゴッホ展を見に行った。15時ごろに到着すると長蛇の列で、入場に50分待ちとのこと。13日までの展示なので仕方がない。やはり人気の展示は会期前半に見ておかなければならないなあと実感。

とはいえ、1時間近く並んで1時間しか見れないのもシャクなので、別の何かないかとぶらぶら歩き出す。上野に美術館は多いが、西洋美術館のハプスブルク展は旧年中に見たし、東京都美術館は3日まで休館している。


東京国立博物館 - 法隆寺宝物・高御座と御帳台・松林図屏風

ということで、今日のところはひとまず「博物館に初もうで」してくるかと歩いていったところ、こちらはもっと長蛇の列。

東京国立博物館 - 展示 日本美術(本館) 特別公開「高御座と御帳台」

即位礼正殿の儀で用いられた高御座・御帳台が観覧無料で特別公開されていて、80分待ち。そんなに待つなら展示を見てたほうがいい。そういえば先日の正倉院展でいっしょに法隆寺の宝物も出てたけど、まとめて見たことがなかった。入館料を払い、黒門の裏を抜けて初の法隆寺宝物館。

入って驚いたのが、ズラッと並んだ鋳造鍍金仏の数。荘厳であり圧巻。なぜ今まで見てなかったのか。フィギュアのような《摩耶夫人及び天人像》に見とれる。

さらに平成館の考古展示室から本館を回っていたら最終入館の時間を過ぎて行列も途切れたのか高御座も普通に見れた。入るなり「ほおお」と声をあげるような代物。すごい。

すごいのだけれど、この様式は何なのだろうか? 和風でもあるし、天平の名残もあり、椅子などは中華風に見える。和洋折衷とはいうが、これは華邦折衷というべきか、時代も混じっているし、ここで束帯姿で儀式をなされた後、洋装に着替えて晩餐会をされていたのだから、現代の宮中は文化の幅が広すぎる。

毎年恒例の国宝《松林図屏風》を見て正月二日の展示は終了。

本館を出てきたらいいかんじの夕暮れでした。ゴッホ展はまた出直してきます。

ゴッホ展

出直して来ました。1月3日。金土は夜間開館で20時までやってるので、18時くらいに行くとあまり待たないで入れる。

ということで、展示の感想なんですが、前半は実質的に「ハーグ派とオランダ時代のゴッホ」展であり、これがすごく地味。

最後にようやく「みんなが知ってるゴッホ」が登場するのでそこで「これだ」ってなるけど、その直前あたりの部屋で「こんなんじゃゴッホ展って言えないわよねえ」って係員にグチっている中年女性がいて「まあそうですね」ってなった。

Van Gogh - Zypressen.jpeg
フィンセント・ファン・ゴッホ - repro from artbook, パブリック・ドメイン, リンクによる

見ものは、メトロポリタン美術館から2012年以来の来日になるらしい《糸杉》だが、自分はこれが初見。このあたりはすごく混んでいて、なかなかゆっくり見られないので入り口まで取って返して、ハーグ派の作品を何度も見る。

ハーグ派をまとめて見るのはBunkamuraのバレル・コレクション展以来だけど、そのときは印象派がメインだったのであまりしっかり見てなかった。今回はハーグ派がメインだったし、印象派とゴッホの部屋は混んでるしで、じっくりと見た。マティス・マリスの作品が特に深みがあってよかった。

よく「ファン・ゴッホの画業はわずか10年」と言われる。27歳で画家を志し、1890年に37歳で亡くなっているので計算通りだけど、よく知られる「ゴッホ」らしい絵を書くようになるのは1987年ごろで、それまでの6〜7年はずっと下積み。地元のオランダでミレーのような農民画家を目指したり、ハーグ派に師事したり。

人気があったハーグ派の作品と、そのころのゴッホの絵を比べてみると、たしかに1つも売れなかったというのも納得できる。後々で「糸杉」を書く人ですとわかっていて逆算して見るからこそ才能の片鱗が感じられるのであって、当時の絵だけをリアルタイムで見せられて、将来の名声はとても予想つかないのではないか。

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フィンセント・ファン・ゴッホ - The Yorck Project (2002年) 10.000 Meisterwerke der Malerei (DVD-ROM), distributed by DIRECTMEDIA Publishing GmbH. ISBN: 3936122202., パブリック・ドメイン, リンクによる

そんなこんなで下積みを経てパリに出てきて、やはりアルルに移ってから、この展示では《パイプと麦わら帽子の自画像》あたりから本領が出てきている印象。色彩があふれはじめ、サン=レミに移った1989年あたりから背景に空ではなく大気が描かれるようになる。絵のすみずみにまで気が満ち、オリジナルの画風を確立して、そしてすぐ亡くなってしまう。長い下積みを経て、数年で見せた指数関数的に急激な変化。そのギャップを見る展示だった。

それにしても印象派というのは、ポピュラー音楽史におけるパンクムーブメントのようなものだったんだなとあらためて思った。演奏が下手でも楽器ができなくても音楽にオリジナリティがあればよかったように、絵が上手いことだけが画家の魅力の全てではなく、いったい作家に世界がどのように見えているのかが問われる時代に入ってきた。

それは個人主義ということかもしれないけれど、作家自身が世界にどのような印象を持っているのかを表現する時代に入ったからこそ、ゴッホのような作家が存在できるようになり、その存在がまた次の時代を作っていったのだろう。

2020年もよろしくお願いいたします

ということで2020年もよろしくおねがいします。この写真は東京国立美術館で正月恒例「いけばな」の展示。

2019年に行った展示を数えてみたら、120現場くらいあった。そのうちこうやってブログに書いたのは40記事もなくて、ぜんぜんアウトプットが追いついていない。今年はもっと記事をたくさん書いていきたい! と正月らしいことを思ったりしました。

今週のお題「2020年の抱負」