in between days

表参道で働くシニアのブログ

2月に1回だけ見れた「AI×美空ひばり」があまりにスゴすぎたのでもう一度なんとか体験したいという話

森村泰昌・矢後直規・津田青楓・関根正二を見ることができた2020年3月のアートシーン」に続き、美術館博物館がコロナでオール休館になる前に見てた展示のまとめです。

2月はなんだかんだ20くらい行ってて、これは1カ月間に見た展示数としては自己最高かもしれない。2月前半はまだ展示が中止になる気配も薄く、3月や4月になるとゴールデンウィークをターゲットにした展示がたくさん始まるから、既存の展示はその前にと考えてたくさん回ったのだけれど……。

月末にバタバタと休館が決まり、見に行く予定だった展示のWebサイトを開いたら急に「本日から休館」と出ていて、仕方がなく代わりに見た展示が翌日から休止になったりした。

ポーラミュージアムアネックス展2020 真正と発気

公益財団法人ポーラ美術振興財団による助成対象となったアーティストを前後期に分け、計6名を紹介する展覧会。前期「真正と発気」が2月21日に開幕したものの、10日ほどで休館。

紙漉きを立体的に展開させる半澤友美の作品が印象深かった。

休止になった分をあらためて秋に再展示することになったようだ。

鏑木清方と鰭崎英朋 近代文学を彩る口絵 朝日智雄コレクション

幻の作品の発見が話題になった鏑木清方に、明治期の木版口絵を取り上げた展示もいくつか続いて鰭崎英朋にも注目が集まっていたところだけど、2月15日に開幕して会期半分ほどで休館になった。

鏑木清方と鰭崎英朋 近代文学を彩る口絵 ―朝日智雄コレクション | 太田記念美術館

近代から現代まで続く口絵や挿絵を歌川派系の絵師が支えたというのは知らなかったことで面白かったかれど、浮世絵とはまた別の世界なりの生き残り方なんだろうとおもった。

この話は後で出てくる弥生美術館の展示に続きます。

ロベール・ドアノー展

横浜のそごう美術館で、京都の何必館が所蔵するドアノー・コレクションの展示。よかった。

ロベール・ドアノー展(そごう美術館)|美術手帖

奇蹟の芸術都市バルセロナ

これも途中で休館になったまま打ち切られて「行っておいてよかったー」となった東京ステーションギャラリーの展示。

奇蹟の芸術都市バルセロナ | 東京ステーションギャラリー

街にフォーカスする美術展といえば昨年はウィーン関連の展示がいくつもあったけれど、あちらは世紀末の装飾美術や分離派といった美術史上のムーブメントと結びついていてわかりやすかった。バルセロナはそこまで大きくないけれど、独自の芸術運動がいくつも起きていてやはり近代なんだなとおもった。ガウディの建築などは豪華。

狩野派 画壇を制した眼と手

出光美術館らしい江戸絵画の展示。画壇を制した「手」の展示を期待していたのだけれど、目利きとしての鑑定した中国絵画や、その機会に模写した作品なども数多く並んでいて、それはそれとして興味深いのだけれど……。

「狩野派 - 画壇を制した眼と手」

去年は奇想をたくさん見たので、2020年はまっとうにふつうに正統派の近代日本絵画をと考えていたけれど、ふつうの系譜もいまひとつ楽しめなかったし、どうにも厳しい。

この展示も会期が3月1日までに半減して、後期展示がなくなったんじゃなかったろうか。

未来と芸術展 + AI×美空ひばり

テクノロジーの発達が都市、建築、デザイン、身体、社会に及ぼす影響や関係を100以上のプロジェクトや作品で紹介する森美術館の意欲的な展示。南條史生前館長による最後の展覧会らしい。

未来と芸術展:AI、ロボット、都市、生命――人は明日どう生きるのか | 森美術館

2019年11月から3月末まで予定されていたが、2月末で休止に追い込まれた。その理由となったウィルス性感染症が現実として都市や社会や身体に与えた影響の大きさや、またに「明日どう生きるのか?」に予想がつかない状況を考えると、未来展というものの難しさを考えさせられる。

そんなことよりここで語りたいのは、12月20日から特設シアターで上映されていた「AI×美空ひばり」がいかにヤバかったかという話です。

AI×美空ひばり | 未来と芸術展 | 森美術館

「AI×美空ひばり」については、山下達郎が冒涜だと語ったとか、NHKの特番が胡散臭かったとかあちこち非難轟々で、周りでも評価してるひとはいなかったけれど、特番も紅白も実は見てなかったので、仕組みとかの記事は読んだけど、コンテンツとしてどういうシロモノかまったく知らなかった。そんな事前知識がゼロのところにいきなり実物を生で体験したので、それはそれはビックリしたわけです。

AIに対して「生で」というのもおかしいけれど、わりと狭めの部屋で照明を落として装飾も黒一色というステージを注視せざるを得ない状況で、椅子に腰掛けた数メートル先に等身大の美空ひばりの映像が浮かび上がっててくるわけです。「ひばり」と一対一で対峙しなければいけない。明らかにCGなんだけど、それがまた依代(よりしろ)っぽさを醸し出していて、つまりIT技術に憑依した御霊というか、超常現象を神秘体験してるみたいな感覚になる。

しかも、歌や演出は秋元康的による例の純戦後日本的な世界観で、高濃度に濃縮されたそれを静脈注射されながら、涙腺が緩むツボを押され続けるような体験だった。日本で生まれ育った50歳以上の人間に見せたらたいがい泣くのではないだろうか。理性や理解の背後にある、経験にもとづいた感覚を揺り動かされている感じがした。

ということを考えたわけですが、何しろこの1回しか見ていないので、見立てが正しいのかわからない。落ち着いて対応したら「幽霊の正体見たり枯れ尾花」みたいになるかもしれないので、もう1回見に来よう。2月29日までやってるらしいからその日に行くぞ! とおもってたら28日で打ち切りになっちゃったわけです。コロナめー!!!

終わって席を立つとき隣のカップルが「とんでもないものを作ったね」って言ってたけど、同じ感想です。とんでもない。機会があればもう1回は見てみたい。

日本書紀成立1300年 特別展「出雲と大和」

東京国立博物館 - 日本書紀成立1300年 特別展「出雲と大和」

所要があって上野まで出かけたついでにトーハクで「出雲と大和」展を見た。弥生時代から奈良時代にかけての古墳の出土品や、寺社の伝来品を中心とした展示。

銅鐸と聞いただけで興奮して走り出してしまうひとにはたまらない展示だったとおもうけれど、地味といえば地味。ただ、最後で派手さを足しておきたかったのか飛鳥から平安にかけての仏像も展示されており、ヒゲをたくわえた中国の武将のような天部がよかった。

出雲の四天王のひとりが「ハンマーカンマー」と叫びそうな面がまえで、たいへんによかった。

見ものはやはり展示の最初にある「宇豆柱」「心御柱」という、かつて出雲大社を支えていた大きな柱の出土品。迫力もあってすごいのだけれど、鎌倉時代に遷宮したときのもので、展示品の中では時代がかなり下ってるというのがおもしろい。

閉館まで1時間半しかなかったので時間がまったく足らなず、後半の仏像はいくつか十分に見れなかった。やはり東博には3時間くらい時間を作って行きたい。


東京 2020 公式アートポスター展/MOTコレクション 第3期

夏の大きなスポーツイベントのポスター展を東京都現代美術館で見てきた。イベントは延期になってしまったけど。

「東京2020公式アートポスター展」、東京都現代美術館で開催へ。全20作品を初披露|美術手帖

ポスターの画像はWebでも見れるけど、やはりポスターサイズで見るのとは体験が違っていて、ツカミの華やかさのそれほどない作品がずっと伝わってくる感じがあった。大竹伸朗、山口晃、フィリップ・ワイズベッカー、テセウス・チャンあたりよかった。

東京2020公式アートポスター

作品によってインクや刷りが凝ってそうなところもあった。山口さんの作品はキラ摺りっぽさあったんだけどどうだろう? 印刷というのは大量生産だけど、紙やインクや刷り方で表現が変えられるわけで、それこそ江戸時代から日本がほこる文化のひとつではあるよなとおもったりした。

MOTコレクション 第3期 いまーかつて 複数のパースペクティブ | 展覧会 | 東京都現代美術館|MUSEUM OF CONTEMPORARY ART TOKYO

場内は、皆川明展などいくつかの展示がまとめてその週末で終わるのでかなり混んでいた。入場が遅くなったし、特別展は何も見ないでコレクション展だけ見てきた。

そのコレクション展に出てたホンマタカシのピンホール写真が、場内のどのポスターよりも「夏のスポーツイベントのポスター」っぽさがあった。

もうひとつの歌川派?! 国芳・芳年・年英・英朋・朋世

「浮世絵から挿絵へ」と副題がついた弥生美術館の展示。

歌川豊春から始まる浮世絵界最大の派閥を「歌川派」といいます。豊春から豊国へ、そして国芳から(月岡)芳年へと枝分かれし、さらに(水野)年方→(鏑木)清方→(伊藤)深水へと続く華やかな系譜がよく知られています。

しかし、この他にも優れた歌川派の系譜が存在するのです!

それが(右田)年英→(鰭崎)英朋→(神保)朋世の系譜です。明治・大正・昭和の時代にそれぞれ活躍し、絶大な人気を得た彼らの類まれなる才能は、このまま忘れ去られるにはあまりに惜しいものがあります。

市井の人々の支持を得て町絵師として生きた国芳や芳年の気骨は、むしろ、年英、英朋、朋世にこそ、脈々と受け継がれていったと言えるでしょう。

弥生美術館・竹久夢二美術館

最後の浮世絵師として月岡芳年はよく知られるところになってきて、今度はその弟子筋に注目が集まりはじめている。月末の太田記念美術館も近い展示だったし、太田記念では明治大正期の浮世絵にフォーカスした展示もあった。この弥生美術館や今年の太田記念の展示では、浮世絵ではなく、同じ印刷文化でも明治期に隆盛した文学作品の挿絵、木版口絵を中心に取り上げている。

展覧会「もうひとつの歌川派?! 国芳・芳年・年英・英朋・朋世」弥生美術館で、浮世絵など約300点 - ファッションプレス

「もうひとつの」というのは、歌川派の本流らしい肉筆の美人画が高く評価される鏑木清方から伊東深水の系譜ではなく、上記のように挿絵を中心に活躍した画家たちにも注目しようということで、つまり江戸時代でいうと絵草紙のような印刷文化の作品ということになるだろうか。

こういった系譜は昭和まで続いていて、伊東深水の弟子に小林秀恒という「怪人二十面相」の挿絵で知られる方がいて、その門人としてあの小松崎茂さんの名前が系図に出ていた。小松崎茂のさまざまなSFプラモデルのイラストが、血まみれ芳年や奇想の国芳につながるというのかというのは感慨深いものがあった。

さて2月はここまでで半分。月の前半は次の記事に続きます。