8月のすっごく暑いなかで見てきた江戸絵画を紹介します。
- 館蔵品展 狩野派学習帳 今こそ江戸絵画の正統に学ぼう(板橋区立美術館)
- 特別展「きもの KIMONO」
- 帰ってきた!どうぶつ大行進(千葉市美術館)
- The UKIYO-E 2020 日本三大浮世絵コレクション
- おいしい浮世絵展(森アーツセンターギャラリー)
- 月岡芳年 血と妖艶(太田記念美術館)
館蔵品展 狩野派学習帳 今こそ江戸絵画の正統に学ぼう(板橋区立美術館)
紹介済みの板橋区立美術館の狩野派と逸見(狩野)一信はこちらをどうぞ。
特別展「きもの KIMONO」
東京国立博物館でやっていたきもの展。金巻さんがすごくよいと言ってたので、和装にも着物にもそもそも服飾にほとんど興味ないマンだけど、行ってきました。おもしろかった。浮世絵とかにはちょっと興味あるマンだったから楽しめたのかもしれない。
東京国立博物館 - 展示・催し物 総合文化展一覧 日本の考古・特別展(平成館) 特別展「きもの KIMONO」
菱川師宣〈見返り美人〉図が出てて、つねづね言うほど美人じゃないし、なんでわざわざ不自然な姿勢で振り返ってるのかまったくわかってなかったけど、この展示で並んでるのを見たら「着物の柄を見せたかったんだな」というのがよくわかって、そして「すごいきれいな柄だな」と、はじめてこの絵で感動した。あと大奥ってハンパなく金あったんだな。驚くほど豪華な振り袖を見た。
帰ってきた!どうぶつ大行進(千葉市美術館)
昨年末にはっきりとわからないものを見せられて以来の千葉市美術館。リニューアル記念で「動物が書かれていること」にフォーカスした所蔵品展なんだけど、冒頭に疫病退散ということで仙厓義梵のばかのような鍾馗などが飾ってあって最高。室町から現代までさまざまな動物がいるなか、チラシにも大きくあつかわれていた石井林響《王者の瑞(しるし)》がとくによかった。江戸じゃないけど。
2フロアにわたって250近い作品が展示されていてとにかく見どころだらけで素晴らしかった。常設展示室もあらたにできていて、国芳の妖怪とか草間彌生があるだけまとめて見れた。
地図で見て本千葉駅のほうが近そうとおもったけど歩いたら遠かったし、疲れてもタクシーぜんぜん通らなくて失敗した(下の写真は本千葉駅のホームから)。
The UKIYO-E 2020 日本三大浮世絵コレクション
この夏のビッグ展示。8月に前期、9月にはいって後期展も見てきたし、カタログも買いました。
とはいえ北斎・広重・国芳あたりはここでなければ見れないというものでもなく、初期浮世絵をまとめて見れたのはよかったとおもった。鈴木春信、鳥居清長、そして喜多川歌麿あたり。千葉市美術館のメアリー・エインズワース展でも図録を買っておけばよかったなっていまになっておもった。
写楽なんかは、江戸博の「大浮世絵展」ではじめてたくさんまとめて見たので、そのときのほうがインパクトは大きく、歌麿は今回のほうがおもしろかった。写楽でいうとよく見る役者絵より、初めて見た武者絵の《曽我五郎と御所五郎丸》がクールでモダンでかっこよく、映画のワンシーンのようだった。1枚しか存在しない貴重な作品だったらしい。
和樂web特選!「The UKIYO-E 2020」ここでしか見られないオススメ作品10点を一挙紹介!!
それにしても大浮世絵展が実は今年っていうのは驚いちゃうけど、コロナ前の出来事ってもう2〜3年たってるようなきがしてしまう。
おいしい浮世絵展(森アーツセンターギャラリー)
これも8月に前期、9月に後期展示を見てきた。タイトルには「北斎 広重 国芳」ってあるけれど、北斎というビッグネームを入れたかっただけだろう。並んでいた作品でいうと、前半は質も量も三代豊国(国貞)と国芳が充実していて、つまるところ国貞国芳による粋でいなせな江戸文化をたっぷり。
後半は東海道五十三次のうまいもの巡りということで、もちろん広重なんだけど、おもしろいのは、みんなが知ってるいわゆる「東海道五拾三次の内」シリーズじゃない五十三次がたくさん出ていたこと。広重は最初に保永堂から出したシリーズが売れたためか、その後に20シリーズくらいの五十三次を書いているらしい。
その中から保永堂版のほか「東海道五十三次の内」「五十三次」「五十三次名所図会」と4シリーズから、モノを食ってるシーンとか食べ物が出てくる絵ばかりを集めてる。雪の蒲原とか雨の庄野が見たかったら東京都美術館に行ってくれ。都美には並ばない浮世絵がたくさん出ていたという意味でこちらのほうがほんとうの庶民の文化なんじゃないかという気がしてくる。
おいしい浮世絵展~北斎 広重 国芳たちが描いた江戸の味わい~ | 森アーツセンターギャラリー
最初の「きもの」展に戻るけど、火消半纏の裏地に凝った絵をいれるんだけど、それがみんな国芳の浮世絵から持ってきたものだっていうのが並べて展示されていて、こういうのを見ると、国芳や浮世絵がほんとうに江戸の町人の文化だったんだなというのがわかる。そういう意味で、こっちの展示の五十三次では初っ端の日本橋が最高だった。保永堂版の〈日本橋 朝の景〉が出てたんだけど、わざわざ人が増えてる後刷り版を並べてる。
上の写真は買ってきた絵葉書とかを並べたもので、左上の〈日本橋〉を、みんなが知ってる下のバージョンと比べてみてほしい。
歌川広重 - The fifty-stree stages of Tokaido (one of 53 prints, +2 for start and terminus), パブリック・ドメイン, リンクによる
後刷りは人がぎっしりで朝の静けさなんか何もありゃしない。その雑さがとっても似合う展示だった。そもそも江戸の食文化って、蕎麦にしても寿司にしても、小腹が空いたときにサッと食べられるファーストフードだったんだしね。
五種類の東海道五拾三次を日本橋から京までつまり250枚以上を掲載した本があったけど、ここに載ってないシリーズも展示されてたようです。
月岡芳年 血と妖艶(太田記念美術館)
正確には江戸ではないけれど、最後の浮世絵師こと月岡芳年の展示。昨年末に歌川派の特集をやっていたけど、国芳のあとがラスト浮世絵といって明治大正にいっきに飛んだからあいだの芳年がいまはいっていてちょうどよい。
ただ、こうして見ていくと、ああ江戸はやっぱ終わってしまったんだなあという気持ちになり、西洋化で文化の枠組みがゆがみ、ズレてってしまったのをどう動いたのか? ということがこのところ気になっている。