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表参道で働くシニアのブログ

「歌麿 抵抗の美人画」読んだ

ボストン美術館に「スポルディングコレクション」という秘蔵の浮世絵コレクションがある。戦時中の1942年に寄贈された6,500枚もの浮世絵だが、退色を嫌って「決して展示してはならない」という条件が課せられていたため、65年間にわたってまったく公開されてこなかった。そのためオリジナルに近いとても鮮やかな色を残しているという。

2007年に高精細デジタル化されてデータで公開されることになった際、日本の浮世絵研究者とともにNHKが取材に入り、NHKスペシャルで「歌麿 紫の謎」を放送した。

注目を集めているのは、喜多川歌麿の浮世絵が400枚、完全な形で残されていたことである。驚くべきは、女性の着物に鮮やかな紫色が惜しげもなく使われていたことだった。紫は退色が激しく、歌麿が紫色にこれほどこだわっていたことは、今回初めて明らかになった。

歌麿が生きたのは、老中・松平定信による「寛政の改革」の時代。浮世絵に対する禁令が相次ぐ中、歌麿はそれに反発し、したたかに禁令の下をかいくぐって作品を発表する。「紫」にこめた歌麿のメッセージとは?厳しい時代を生き抜いたある浮世絵師の姿が浮かび上がる。

この番組のディレクターだった著者が、コレクションに残されていた作品をもとに、同時代の伝記や記録も少ない歌麿の生涯に迫っている。華やかな美人画で時代の寵児となった歌麿が、松平定信による寛政の改革で派手な錦絵への締め付けが厳しくなり、倹約令のかっこうのターゲットとなるなか、ひとりのクリエイターとして時代と対峙した姿が描かれている。

浮世絵の展示を見ても、歌麿のシリーズは何歳ごろの作品でどういった時代背景のもとで書かれたかなんて意識していなかったけど、実のところお政治や社会の変化が作品に大きな影響を及ぼしていたという。いっそ時代の皮肉も感じる一冊だった。

歌麿 抵抗の美人画 (朝日新書)

歌麿 抵抗の美人画 (朝日新書)

「寛政の改革」の時代を生きた絵師・歌麿。時の老中・松平定信は、次々と浮世絵に対する禁令を出す。男は、それでも描き続けた。描くことが生きることだから。秘蔵コレクションをカラー40ページで一挙公開。

鮮やかなスポルディングコレクション

スポルディングコレクションThe Spaulding Collectionがどれだけ鮮やかな色彩を残しているか、ボストン美術館の作品検索で「歌麿『錦織歌磨形新模様』白うちかけ」で検索してみると分かる。

Results – Advanced Search Objects – Museum of Fine Arts, Boston

同じ2枚の作品が登録されているが、鮮やかな右側がスポルディングコレクションだ。

The White Surcoat, from the series New Patterns of Brocade Woven in Utamaro Style (Nishiki-ori Utamaro-gata shin-moyô) – Results – Advanced Search Objects – Museum of Fine Arts, Boston

右はビ、アーネスト・フェノロサと来日し岡倉天心とも親交があり、3万枚以上の浮世絵コレクションをボストン美術館に残したウィリアム・スタージス・ビゲローのコレクション。

The White Surcoat, from the series New Patterns of Brocade Woven in Utamaro Style (Nishiki-ori Utamaro-gata shin-moyô) – Results – Advanced Search Objects – Museum of Fine Arts, Boston

こうして並べてみるとまったく色褪せている。公開しないという選択が実はこれ正解だったということに驚くばかりだ。

関連

そのほか浮世絵が関係してくる新書をいくつか読んだのでメモ。

江戸の人気浮世絵師 (幻冬舎新書)

江戸の人気浮世絵師 (幻冬舎新書)