ちょっと前の記事だけど、デイリーポータルZが命札をネタにしててすっごい懐かしい気持ちになった。
大分ではプールにかまぼこ板持って行くって本当か? - デイリーポータルZ:@nifty
タイトルではさらっと「命札」って書いたけど、DPZの記事ではただ「かまぼこ板」としか紹介されてなくて、何のためにどんなふうに使ってた板なのかは、はてなブックマークのコメントにあったこっちの1コマがよくわかる。
1コマ漫画 日本列島あるあるツアー (4) 徳島県民がプールに持っていく「命札」って!? | マイナビニュース
つまり、プールで溺れた子供がいないかどうかの数合わせに使うのである。
安否確認に使うらしく、徳島以外にも九州・四国地方で使用されてるんだとか。
とはいえ、まだこういう疑問が残ってるひともけっこういるんじゃないだろうか。
- プールで溺れてたら見てすぐわかるのでは? 板の数とか関係なくね?
- なぜ「かまぼこ板」なのか?
この疑問を九州・四国地方のほぼ真ん中(愛媛県南西部)で生まれ育ったわたしの体験をもとに解きほぐそうというエントリーです。
プールで溺れてたら見てすぐわかるのでは?
プールなら確かにそうなんだけど、そもそも命札は(ぼくの体験ベースだからすべての地域がそうなのかわからないけど)、もともと海水浴で使われてたものだった。
愛媛の西側、つまり九州と向かい合ってる側はリアス式の海岸で、砂浜があまりなく、すぐ深い岩場になっているから、子供が泳ぎにいくとすぐ足がつかなくなる。海で溺れて沈んじゃったり流されちゃったりすると、プールみたいに限られた空間でもないので、本当にたいへんだし、命の危険が危ない。板の数と子供の数が合ってるかどうかをチェックする必要性はより高かったのだろう。
海水浴といっても、家族連れがあつまる行楽地みたいなんじゃなくて、ほんとに田舎の、その集落が面した入江のちょっと外れで(集落のすぐ前はだいたいちょっとした桟橋があって舟がもやってあったりする)、地元の子供しか泳ぎにこないようなところ。子供だけだと危ないので、父兄(だったのだろうけど、子供からすると近所のおばちゃん)が回り持ちで、ゴザとか敷いて帽子をかぶって座ってるところに、子供が「命札」をあずけにやってくる。
田舎だし、まだ携帯電話もない時代だから、だれかが溺れたってなってもすぐに助けを呼べるわけでない。そういう社会と時代を背景としての「命札」ってシステムだとおもうと、ノスタルジックで野蛮な昭和っぽさがあるよね。70年代前半のはなし。小学校にプールができたら、そもそも海に遊びにいかなくなったので、仕組み自体がなくなった。
そういえば、お盆を過ぎたら泳いじゃいけない(クラゲが出るとかより、海で死んだひとが出てきて足をひっぱるからって言われてた)ってなってたので、それまでの期間限定。時間も午後2時までって決まってたきがする。
でも、なぜ「かまぼこ板」なの?
というのが、命札ってシステムは切実に必要だよって話。でも、なぜ「かまぼこ板」なの? ってきっと多くのひとが疑問におもうだろう。
その答えは、かまぼこ板に次のような3つの特徴があるからだ。
- マジックなどで名前を書いて視認するのにちょうどよいサイズ感
- ほぼ定型なので、たくさん集まっても並べやすい
- どの家庭にもふつうに常備されているので、わざわざ買ったりしなくてよい
と書いてみたものの、上の2つはともかく、最後のは納得感があまりないかなあ地域によっては……という気がさすがにする。
愛媛県の南西地域は「かまぼこ」の名産地なので、かまぼこをとにかくたくさん食べる。冷蔵庫には常備されていて、ごはんの席では常備菜のようにかまぼこが一皿盛られてたり、おでんには当然として、各種の鍋物、煮物、ラーメンの具、スパゲティー(ケチャップ炒めでごはんのおかずになるやつ)、さらにカレーに(肉の代わりに)入ってたという家庭もあって、とにかくかまぼこをたくさん食べる。
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だから、かまぼこの板もたくさん出る。だいたいの家庭で、台所の片隅に「かまぼこ板」がスーパーのビニール袋とかたたみなおした包装紙とかといっしょに蓄えられてて、学校で「明日の図工の時間には、かまぼこ板を2枚持ってきてください」と先生に言われても安心、みたいな地域事情だったりするので、ふつう小さめの「板」という板が使われる場面ではデフォルトで「かまぼこ板」なのだ。ほかの選択肢はない。
「先生! これ八水蒲鉾の板じゃ!」という地元CMにこの世界観がよく現れている(0:50ころ)。
余談だけど、宇和島とか八幡浜の蒲鉾屋さんが売ってる「じゃこ天」という魚のすり身を揚げた食べ物は東京でも最近スーパーで見かけるようになってきたけど、愛媛ではじゃこ天の具をそのままじゃなくてコロモを付けて揚げた「じゃこカツ」という食べ物がでてきたと聞いて、故郷は遠くなったものだとおもったものでした(写真は3年前くらい前に帰省したときのもの)
そういえば、削りかまぼこってあまりほかの地域で見ないよね。ごはんにかけて食べます。
ということですっかり愛媛の物産エントリーになりましたが、全国のかまぼこの消費量をみると、だいたい西日本、九州四国に偏ってる印象なので、そういった地域性と時代性により「プールにかまぼこ板」を持っていくという状況がおもに九州四国で生まれたのではないでしょうか。
あと、愛媛で「ちゃんぽん」というと長崎のちゃんぽんと(主にスープが)違うものが出てきますし、タルトには餡がはいっています。