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表参道で働くシニアのブログ

電子計算機っていうとハードウェアがイメージされるところにちょっとした「ハコモノ行政」っぽさがある

愛媛県庁の大型計算機が退役するのでセレモニーが執り行われた、というニュースがNHKのサイトに出てたんですが、何か分かりにくいなあ、こんがらがってるなあ、と思ってしまった。

よく「ハコモノ行政」っていうけれど、この分野でも大切にされるのは外側の箱なんだなあ。

「長年のサポートに感謝」県庁の電子計算機運用終了の催し|NHK 愛媛のニュース

50年も使われてきた電子計算機ってどんなの?

気になるのは次の箇所で、これを読んでどういう「電子計算機」をイメージします?

愛媛県庁でおよそ50年にわたって税金の計算や会計業務などに使われてきた大型の演算装置、電子計算機の運用が20日で終了となり県庁で催しが行われました。

50年にわたり使われてきた大型の演算装置?? ということは1970年代のメインフレームだろうから、昔の漫画とかでよく見た磁気テープのストレージがカタカタと動くこういうやつかな?

IBM 729 tape drives.agr.jpg
By ArnoldReinhold - Own work, CC BY-SA 3.0, Link

って思うじゃないですか。だがしかしですね、動画のサムネを見るともっとぜんぜん現代風な容姿をしているわけです。計算機に前面には「 i-PX9800」という文字も見えます。

これはNECの大型計算機の型番のようで、OSとして搭載されている「ACOS-4」の項目をウィキペディアで見ると2012年発売(その後、2017年に後継機が出ている)

2012年6月に発売されたi-PX9800でNEC独自のプロセッサ(NOAH-6)に再転換し対応するACOS-4/XA

ACOS-4 - Wikipedia

ということはこの写真の電子計算機の稼働年数はたかだた10年前後であって(それでもスマホの寿命に比べたら十分に長いですが)、50年にわたって税金の計算なんかしてないんです。

50年にわたって税金を計算してきたのはソフトウェア

それでは何が「50年にわたって」いたかというと、経理上は「NECとの契約」ってことなんでしょうけど、もうちょっとコンピューターの話に寄せるなら、NECの大型計算機を利用したシステムが50年にわたって継続利用されてきたってことでしょうね。

その間にハードウェアは何度か更新されてるでしょうから、電子計算機としてはたかだか10年くらいだとしても、その上で動いているソフトウェアはまさに50年にわたって税金の計算や会計業務などを担ってきたわけです。

とはいえ50年前のソフトウェアがそのまま動いてることはないだろうと思いますが、なんにせよ物理的な電子計算機そのものではない。

なんですけど、このニュースでは物理的なハードウェアと、その上で動作しているソフトウェア/システムがごっちゃになっちゃってるなあ、と思うわけです。

やっぱり人は、どうしても物理的な物体に終わりがきたときに「終わったな」って実感するものなんでしょう。冒頭のリンク先には「催し」の様子が報じられる動画があるんですけど、カウントダウンにあわせて部長がおもむろにリターンキーを押す。すると

順次電源切断が正常終了しました

ってディスプレイに表示される。なんだか拍子抜けなかんじもありますが、電源が切断されたんだから電子計算機が停止したんだろうってなる。

開発に長年携わってきた担当者が「ありがとう」って計算機をなでてますが、ほんとうに感謝すべきはその上で動いていたソフトウェアであり、ソースコードのはずです。でも、ソースコードはとくに顧みられない。かわいそうなソフトウェア!

まあ実際にコードを書いていたのは下請けや孫請けであってこの場には呼ばれてないって可能性もなくはないですけど……。

ソフトウェアの寿命の方を報道してほしい

まるで織物工場で長年使われてきた自動織機が使われなくなるかのように、ハードウェアとソフトウェアという2つの側面があるはずの電子計算機を「機械」としてだけ捉える見方がまだまだされているし、そのあたりは「カタカタ動く磁気テープ」が大型コンピューターの計算動作そのものだと思ってた50年前からぜんぜん変わってないんだなと思いました。

もうひとつ言うなら、記事の中で「電子計算機に代わる新たなシステムを導入し」ってあるのは、計算機に変えて計算尺でも導入したとかってことはなくて、おおかたクラウドに切り替えたってことなんだろうなあと思いますが、クラウドだって電子計算機は動いてるだろ! 仮想化されてるけど。

と、ここまで書いてきて、ひょっとして50年来のソフトウェアはリプレイスされず、そのままクラウド上で動いてるってこともありえると気付きました。たとえ物理的な計算機は終わっても、50年にわたって継ぎ足された秘伝のコードは不滅! それはそれでどうかという気もしますし、こうなるとむしろソフトウェアがどうなったのかが知りたいかもしれない。

ところで、愛媛県庁のi-PX9800はずっとこの部屋に置かれてたんでしょうか? これまではサーバールームに設置されてたのをセレモニーのために移動してきたんだと思うんですが、ニュースでは「機械室に設置されている」って言ってたので、ワンチャンこういう事務機器が並んでる部屋にずっと置かれてた説もあるうると思ったりしました

何にせよコンピューターに特有の用語を、世間に馴染みのある言葉に言い換えただけではかえってなんだか分からなくなることってありますね(急なまとめ。