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表参道で働くシニアのブログ

「楽しいです」をどう回避するか? 〔日本語を編集する悩ましさ〕

日本語の欠点のひとつとされるものとして「形容詞+です」の問題があります。

これは標準語の敬体表現において、名詞であれば「犬です」のように「です」があり、動詞には「遊びます」にように「ます」があるのに対して、形容詞に付く適切な助動詞がないことに起因しています。一種の仕様バグかもしれません。

とても丁寧に言えば「楽しうございます」となるけれど、この「ございます」ほど丁寧でなく、もっと日常的で使いやすい語尾がほしい。京都には「楽し(う)おす」という表現があり、これが入って標準語にも「です」「ます」「おす」が揃っていればキレイだったんですが、残念ながら含まれていない。

それで仕方なく使われてるのが、本来なら名詞に付く「です」を形容詞に付けた「楽しい+です」という表現で、これがどうしても木に竹を接いだような印象になってしまう。とはいえ、いかんともしがたいので、最近では「い+です」も正しい日本語でいいんじゃないかということになっているようなのです。

Q. 「楽しいです」「大きいです」という言い方には、やや違和感を持ちますが、正しいのでしょうか?

A. この言い方は現在では認められています。

「楽しいです」 | ことば(放送用語) - 最近気になる放送用語 | NHK放送文化研究所

と、かなり雑な説明をしてきましたが、ちゃんと考えたいひとはこちらのエントリーなどを読むとよいでしょう。

nihongomemo.hatenablog.jp

で、 日本語としてはそれでもいいとしても、問題なのはやはり、書き言葉として「形容詞+です」は稚拙な印象を与えてしまいがちで、なんとなく「子供の作文かな?」というレベル感を醸し出してしまうことです。

私は仕事としてITエンジニアリングに関する技術エントリーを編集したりすることもあるのですが、そこでよく「形容詞+です」が使われていると、ちょっと困ってしまう。日本語として間違いではないとなっているし、そもそも文学ではなく実用のテキストなのだから、そうこだわる必要もない。ないのだけれど、技術的にしっかりしているだけに、子供の作文っぽい要素はできるだけ排除したくなります。

それで、聞いてみたいんですけれど、みなさん、どうしてますか?

この「みなさん」というのは、私と同じような職業編集者の方々を想定しています。仕事として他人様の文章に手を入れている際に、文章全体のイメージをやや稚拙にしかねない表現がある。同じ内容のことをより違和感のない、コンテキストに合った言い回しや表現に言い換えることは編集者の技能のひとつなので、たいがいよく使う手法を何か持ってるのでは、とおもうのだけど「形容詞+です」についてはどうしてますか? ということをお聞きしたいのです。

私がどうしているかを先にお話すると、ひとつあるのが「なります」への置き換えです。「楽しいです」なら「楽しくなります」とか「楽しくなりました」に言い換える。

日本語の「になる」表現はそれはそれで批判が多く、例えばファストフード店での「こちらポテトになります」という言い回しについては「ポテトになるんじゃなくて、もともとポテトだ」というようなツッコミが入ったりしがちなので注意する必要がありますが、経験的には「い+です」から「く+なります」への置き換えは、だいたい違和感がないことが多い。

おそらく名詞ではなく形容詞なので、名詞が「なります」だと物体が別のものに変化してしまうのはおかしいってなるけど、何らかの状態が変化することは普通にあることなので、ある時点で「楽しい」状態であったとするなら、その少し前からの時間を加味すれば「楽しくなる(なった)」と言ってもだいたい間違いではない。

とはいえ、同じテキスト中に何箇所も「い+です」があるときに、すべて機械的に「く+なります」に置換していくのも何とかの一つ覚えで芸がなく、できれば複数の言い回しのうち最も適したものに置き換えたい。あるいはそのままで違和感ないならそのままでもいいんだけど、そういったナレッジといいますか、プラクティスといいますか、良さげな手法がたくさんほしいなあと思ったりしているわけでです。

ちなみにこの文中で、もうひとつ別のやり方を何回か使っているのですが、それは、敬体と常態を混在させちゃうやつです。形容詞で終わる文は敬体にしないで「〜い。」でそのままにしちゃう。それでも意外と違和感がなかったりするので、「い+です」の違和感と天秤にかけて使ってたりします。とはいえ、ほかの人の文章を編集するときには使いにくいのです。敬体と常体は使い分けるというのが文章の基本とされているので。

あ、いまもうひとつ「い+の+です」ってのも使ってみました。あとは意味がそう変わらない範囲で別の品詞に言い換えたりもしますよね。「多いです」だったら「よくあります」とか。

ちょっとまとめてみましょうか。「い+です。」をどのように言い換えるかについて

  1. 「〜く+なります。」への置き換え
  2. 「〜い。」のままで常体を敬体に混在させる
  3. 「い+の+です。」として「の」でワンクッション置く
  4. 「多い」→「よく」など別の品詞の語への置き換え

という4種類の手法を使っているということをこのエントリーでは書きました。もっと他のやり方があったらぜひ教えてください。こういう話は楽しいですね!

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