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表参道で働くシニアのブログ

「フランダースの犬」のドキュメンタリーはほんとに「滅びの美学」とか言ってんのかな?

「フランダースの犬」日本人だけ共感…ベルギーで検証映画 : ニュース : エンタメ : YOMIURI ONLINE(読売新聞)(【追記】記事リンク切れ)

原作は英国人作家ウィーダが1870年代に書いたが、欧州では、物語は「負け犬の死」(ボルカールトさん)としか映らず、評価されることはなかった。米国では過去に5回映画化されているが、いずれもハッピーエンドに書き換えられた。悲しい結末の原作が、なぜ日本でのみ共感を集めたのかは、長く謎とされてきた。ボルカールトさんらは、3年をかけて謎の解明を試みた。資料発掘や、世界6か国での計100人を超えるインタビューで、浮かび上がったのは、日本人の心に潜む「滅びの美学」だった。

「負け犬の死」とか「滅びの美学」をわざわざ括弧書きにして日本人の特殊性みたいなものが強調されてるんだけど、なんか違和感があるなあ。ということで調べてみました。

テレビアニメ「フランダースの犬」の99%は日本人の創作?

「Patrasche, a dog of Flanders, made in Japan」で検索してひっかかった向こうの記事をいくつか読んだんですが、どうやら現地のアントワープ市の人たちにしてみれば、もともと「なんで日本人はわざわざここにやってきて泣くの?」みたいな違和感があったようです。

読売の記事のような日本人論よりも、むしろ逆に「われわれ(ベルギー人)は、日本人にどう見られているか? どういうイメージがひとり歩きしてるのか?」みたいなことを検証するって雰囲気を感じました。だから実際のフランドル地方にすんでるひとの感覚と、日本版アニメに描かれたフランダース地方や物語をちゃんと見比べないで、単純に「欧米人はあの感動の最終回が理解できないのかー」なんて納得しちゃうと、それは読売のミスリーディングにまんまと乗っかってしまったことになっちゃう。

オラが町には自慢の世界遺産な町並みがあるのに、そのなかのたったひとつの寺院のたった1枚の絵のみを目当てに地球の裏側から観光客が引きも切らないでやってくる。その理由になってるのは1本のアニメーション作品のようだけど、その原作を書いたのはそもそもイギリス人で、フランドルには旅行でちょっと立ち寄っただけ。

しかも原作で65ページの小さな物語を1年のテレビシリーズに引き延ばしてるから、ストーリーの8割が日本人による創作。年齢の設定を引き下げるなど、より悲劇度が増すような翻案がなされ、しかも何よりそのテレビアニメーションで描かれている風景(風車)や風俗(木靴とか)はぜんぜんフランドルじゃなくって、むしろ隣りの国のオランダだよそれはという勘違いっぷり。

っていうことで、ルーベンスの絵がストーリー上の大切な役割を果たしているということ以外は、ベルギーともフランドルともアントワープともまったく関係のない、純日本製のアニメ作品。日本人が勝手にフランドルのことを想像して(記事には「アニメ版のなかの99%は not real だ」と書かれてました)作品つくっちゃって、それに勝手に感動されて観光客が押し寄せてくる、という状況。

これはたとえるなら、旅行にちょっと奈良に立ち寄ったことがあるだけの台湾のひとが書いたあまり有名ではない短編小説をもとにして、ブラジルで「奈良の鹿」なんてタイトルの大ヒットのテレビドラマシリーズが作られて、でもその舞台になってるのはどう見ても朝鮮半島で、でも遠く地球の裏側のブラジルから観光客が引きも切らないで奈良に押し寄せてきてて、ラストシーンの悲劇の舞台になっている奈良の大仏の前で来るひと来るひとみんな号泣している。みたいな構図を思い浮かべればいいのかな。

確かにそれはちょっと不気味だわな。どんだけ派手に誤解されてんだと。そこに何があるのかと問いたくなるのも無理はないという気がした。

Rubens Kreuzabnahme1.JPG
By ピーテル・パウル・ルーベンス - 投稿者自身による作品, Welleschik, 2006年8月, パブリック・ドメイン, Link

というのはエキサイト翻訳とヤフー辞書の英語力にべったり依存な理解なので、とりあえず関係しそうな記事を張っとくから正しいところはリンク先を読んでいただければとおもいます。

日本人は主題歌をオランダ語で口ずさむ

上の記事のアントワープの市のサイトにあった「30 million television Japanese viewed the last episode. Many of them can still sing the series opening song, in Dutch! (3千万人もの日本人が最終回を見た。その多くはいまだに主題歌を口ずさむことができる。オランダ語で!)」って記述には笑った。

オランダ語でってのは主題歌の冒頭の「らららーらららーじんぐるじんぐるなんちゃらかんちゃら」ってアレな。アレってオランダ語だったんだ! いま知った。

YouTubeにこのドキュメントのトレーラーがあがってたけど、その主題歌がものすごフューチャーされてる。

patrasche A dog of Flanders DOCUMENTARY フランダースの犬 Furandâsu - YouTube

eBayで売ってる

ドキュメンタリーのDVDはベルギーのeBayで売ってたんだけど、解説がなぜか日本語だった。これを読んでも読売の記事とはちょっと雰囲気が違う。滅びの美学とか出てこない。

少年ネロと愛犬パトラッシュは、日本でとても愛されています。1975年にアニメ「フランダースの犬」が製作されてから、毎週2500万人の人達に見られるようになってこの物語は、日本の代表作となったのです。

しかし、1872年に書かれたこの物語について、私達は何を知っているでしょう。だれが、どのような理由で書いたのでしょうか。そして、どのようにして日本に伝わっていったのでしょうか。ネロとパトラッシュの地,フランドルでこの物語がほとんど知られていなのはなぜなのでしょうか?

3年の月日を費やし作られたこのフランドルのドキュメンタリーが答えを導き出すでしょう。例えば、このイギリス人の作者が、彼女の飼い犬たちと少ない食べ物を分け合うようにして死んでいったこと、そして、どのようにこの物語「フランダースの犬」が日本に入ってきたのか、などまでも分かるはずです。

このドキュメンタリーの製作者達は、1908年に初めて出版された日本語版を手に入れました。そして有名な日本アニメのプロデューサーと監督にインタビューする事が出来たのです。その上、彼らは世界を旅してまわり、ネロとパトラッシュのハリウッド映画を5本、そして500にも及ぶイラストを含む100冊以上の改版本を探し出しました。

今回のこのドキュメンタリーは、この物語に対する日本人の観点とは又違ったものです。「パトラッシュ、フランダースの犬―メイド・イン・ジャパン」は、想像、フィクションそしてフランドルに関する現実離れした映像の混合と言えます。このドキュメンタリーによって、現実がどのように曖昧か、そしてこのような小さな物語が、良くも悪くも過大な影響を人々に及ぼす事を知る事が出来るでしょう。

eBay.be: DVD Patrasche Dog of Flanders DOCUMENTARY Japan version (object 120187443518 eindtijd 21-jan-08 18:23:43 CET)

「滅びの美学」はどっから出て来たのか

「Flanders Today」の記事にこういう下りがあるんだけど

But it’s the Japanese that really capture the imagination in the documentary. “They see many values in the story that we don’t identify with,” says van. Dienderen. “For them, it’s more important how you die than how you achieve a goal. Nello is dying in a very noble way with a smile on his face.” This resembles the construction of the hero myth in Japan, as evidenced by revealing interviews. “Winning isn’t the only important thing in life,” says Miyashita. “Sometimes you should lose.”

※超訳 - このドキュメンタリーで本当に浮かび上がってくるのは日本人の姿だ。「彼らは、我々の中にはないような価値をこのストーリー中にたくさん見いだしています」「彼らにとって、どのようにゴールするかよりも、どのように死ぬのかはより重要なのです。ネロは微笑んで死にました」。これはインタビューを通して明らかになるように、日本の英雄譚の構造に類似している(略

ここに書かれているようなことが結論であるなら、それは確かに「滅びの美学」という言え方ができるかもしれないけど、ちょっと表現としては大げさじゃないかなあとおもいました。

それから、そういう「微笑んで天国に召される」という描写は、日本人が、日本人のために、日本人向きのストーリーと世界観(滅びの美学?)を突っ込んで、わずか65ページの原作を丸1年のテレビシリーズに膨らませた仕上げとして盛り込んだと。だからまさに「made in Japan」な「フランドルの犬」ということなんですね。

僕たちは、フランダース地方の物語に感動していたわけじゃなくって、日本人向けにかなりアレンジされた、というよりほとんど日本で創作された物語に感動していたんですね。なんかそれがわかっただけでもいろいろ面白かった。

関連リンク(日本)

はてブでは「アニメがあったからだろ」みたいな意見が散見できるけど、もちろん上で書いてるようにこのドキュメンタリーでもその検証がメインになってて、上にリンク張った向こうの記事によると「They were able to interview numerous people involved in the making of the legendary 1975 Japanese animated series.(1975年の伝説的アニメーション作品の関係者に多数インタビューすることができた)」という内容になっているもよお。日本のアニメーション史的にも気になるんじゃないかな、とおもった。

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