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表参道で働くシニアのブログ

「私、上手いでしょ」って歌うから、小田さくらはかわいい ― アイドルの「いい上手さ」について

夏の話題で今さらすぎるけど、8月のRIJFにモーニング娘。初出場した件。リアルタイムでツイッターを見ていたらかなり話題になってて、ファンとしては喜ばしかった。

【ライブレポート】フェス初出場のモーニング娘。’18が高いパフォーマンス力で観客を圧倒!<ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2018> | WWSチャンネル

モーニング娘。は、RIJFはおろかいわゆる「フェス」にはほぼ参加したことがないので、ライブを初めて見る人が多かったはず。そのため、いわばベールに包まれたアイドル界のビッグネームの参戦として期待感が高まったのだろうか。


フェスでも披露された2018年6月13日発売のシングル「Are you Happy?」

モーニング娘。に今さら何が期待されていたのか?

現在のモーニング娘。は実際にライブパフォーマンスそのものを売りにするグループになっていて、春と秋にそれぞれ30公演ほどずつの全国ホールツアーを毎年行っている。セットリストも冒頭2曲目から10分におよぶマッシュアップメドレーを投入するなど、なかなか攻撃的で楽しませてくれる。

そんなモーニング娘。のライブパフォーマンスにフォーカスしたテレビ番組が、ちょうどこの時期に何本か放送されていて、今から考えるとこれがフェス前の盛り上がりにひと役買っていたのかもしれない。

6月17日「関ジャム 完全燃SHOW」で「ハロー!プロジェクト」特集

まず、以前にもモーニング特集を組んだことのある関ジャムでハロプロの特集。スタジオには大森靖子さん、松岡茉優さん、ヒャダインさんの3人がプレゼンターとして登場。

6月17日放送「関ジャム 完全燃SHOW」、「ハロー!プロジェクト」特集に大森靖子、松岡茉優、ヒャダインら出演。モーニング娘。'18とのダンス・セッションも - TOWER RECORDS ONLINE

ヒャダインさんの「ハロプロ全体が偏差値の高い女子校」という名言も飛び出し、グループ・プロジェクト全体がパフォーマンスを重視していることが示唆され、後半では関ジャニ∞のメンバーとモーニング娘。のコラボではそれが実演された。

7月6日「ミュージックステーション 2時間スペシャル」

続いて3週間後のMステには、モーニング娘。'18に加えてプレゼンターとしてまたも松岡茉優さんが出演。自筆のフリップを使って「パフォーマンス」「フォーメーションダンス」そして「女性ファン急増!」について語る。

モーニング娘。’18、『Mステ』松岡茉優の応援出演に発奮「カッコよかったって言われたい!」 | ORICON NEWS

そもそも、この5月にカンヌ国際映画祭で最高賞を受賞した映画の出演女優が、映画じゃなくてモーニング娘。のPRでテレビ出演してくれることには有り難さしかない。別番組では指原莉乃さんと推しについて熱く語りあっていた。

指原莉乃&松岡茉優、『真夜中』でモー娘。への愛を語り尽くす 両者のトークに見るグループの未来 - Real Sound|リアルサウンド

7月25日「FNSうたの夏まつり」でDA PUMPとコラボ

そして、その3週間後の音楽特番では、今年前半から「ダサかっこいい」ところが「ハロプロに似てる」と話題の「U.S.A.」をDA PUMPとコラボ、からの「関ジャム」でも取り上げた最新曲と往年の名曲のマッシュアップメドレーを披露

センターに近い立ち位置で「いいね!」ダンスを笑顔で踊り狂った石田亜佑美が、検索ワード「ISSA 隣」でTwitterのトレンド入り。

モーニング娘。’18、『FNSうたの夏まつり』で DA PUMP とのコラボが示した真の実力とは? | エンタメアライブ

こうやって「モーニング娘。のライブパフォーマンスがどうやら凄いらしい……」というの空気感が夏フェス前に少し醸成されてたのではないだろうか……!?


昭和のムード歌謡とEDMの融合。2018年10月24日発売の最新シングル「フラリ銀座」

歌やダンスが上手いことと、アイドルとしての魅力

ところでライブパフォーマンスがすごいとか、コラボとマッシュアップに定評があるというのは、アイドルグループの謳い文句として果たして適切なものなのだろうか? というより、それはアイドルの魅力として機能するものなのだろうか?

そもそも女性アイドルの最大の魅力は「かわいい」ことであって、世間一般に支持される「かわいさ」があれば、歌唱力とか演技力とかが物足らなくてもかまわないし、むしろ足らないほうが「かわいさ」が増すこともある。

この8月にニコニコニュースORIGINALに掲載された吉田豪さんと掟ポルシェさんの対談でも、下手なアイドルの良さが熱く語られている。

アイドルソングの“いい下手さ&悪い下手さ”について吉田豪らが提言「スキル主義もわかるけど、アイドルの魅力はそこじゃない」

ニコニコ生放送の書き起こしなので読み物としては意味が取りづらいところもあるけれど、気になる発言をいくつかピックアップしてみる。

掟:やっぱり歌唱力をその人に求めていない。アイドルって何が仕事かって、かわいいのが仕事だったりするわけでしょう。上手くなりすぎるとかわいいよりちょっと目減りしちゃうんですよね。

吉田:RHYMESTERの宇多丸さんがかつて言っていて名言だと思ったのは、アイドルというのは何らかの実力よりも魅力のほうが秀でている存在。その足りない部分をファンが応援で補完する。本当にそれがそうで、実力を高めようとしていくものではあるんだろうけれど、そこが際立ちすぎちゃうと、魅力よりもそっちが目立っちゃうんですよ。

実力の人になると、だったら普通にアーティストやってくださいっていうか。実力が高くても、それよりも魅力が上回ってくれないといけない

この話題の前提として、吉田豪さんはアイドルの歌に「いい上手さ」「悪い上手さ」「いい下手さ」「悪い下手さ」があると言っていて、この対談では主に「いい下手さ」について語られている。また、おそらく実力が際立って魅力より目立ってしまうのが「悪い上手さ」となるのだろう。

それでは、アイドルにとって「いい上手さ」とはどういうものだろう? そもそも「歌が上手い」ことがアイドル活動においてどれほどプラスに働くのだろうか?

この対談でも松田聖子について、デビュー当時は歌が下手だったという久田将義さんに対し、掟・吉田の両氏が「昔から上手かった」と突っ込むシーンがあるが、松田聖子クラスであっても歌が良いという評価を一般には得られていなかったことが興味深い。

そう考えていくと、モーニング娘。'18が、あまりに歌が上手い、ダンスが上手い、パフォーマンスがスゴいと喧伝されてしまうのも、アイドルとして良し悪しである。いわゆる「悪い上手さ」に陥ってしまうリスクを、どう回避すればいいのだろうか?

歌の上手さがアイドルとしての魅力を引き出す

先の吉田豪さんの発言を借りるなら「魅力」が「実力」を上回ればよくて、つまり歌が上手くなった分だけ「かわいく」なればいいのだ。いまのモーニング娘。は、それを十分に意識しているように思える。

例えば、高木紗友希(Juice=Juice)、鈴木愛理(元℃-ute)との歌唱メン3人による対談企画で、モーニング娘。の「歌姫」オーディション合格者である小田さくらは「プロのシンガーでも歌ウマ中学生でもないアイドルが伝える歌」について語ってる(8分あたり)


公式チャンネルにこういう動画が上がっているところにスキルに対するハロプロの考え方が表れている

スキルがないことの弱さ、拙さ、かわいさ、努力をする姿、一生懸命に頑張るパフォーマンスする姿、そこに変わらずアイドル的な魅力がある一方で、モーニング娘。が向かっているのは、十分に歌えて十分に踊れて余裕で笑顔を絶やさずパフォーマンスすることの「かわいさ」ではないか。

以前にも書いたことあるけれど、2014年の武道館公演で見た「シャボン玉」の小田さくらの歌唱とハイキックのコンボはほれぼれするステージングだった。けっきょく僕はそれを上回るものがまた見たいだけなのかもしれない。

モーニング娘。の魅力がライブパフォーマンスにあるというのは、歌が上手いとかダンスがキレキレということだけではなくて、重要なのはライブパフォーマンスをしているとき、心からの笑顔を振りまくメンバーがとっても魅力的に見えることだ。それぞれ最上のパフォーマンスを発揮できているときにこそ、一番の「かわいさ」が発現しているように見える。

オフステージでは突拍子ない破天荒キャラとなる佐藤優樹が、いまや多くのファンからハロプロ全体のエースと目されているのは、彼女がステージ上でその天才性を遺憾なく発揮しているからであり、それがまた極上に「かわいい」からにほかならない。


2015年のシングル「青春小僧が泣いている」の2018年夏のライブパフォーマンス。2分40秒あたり佐藤優樹「DA RE ZO」(いろは歌「我が世誰ぞ常ならむ」の「誰ぞ」3文字だけの歌割り)に注目

パフォーマンスに自信があるから生まれる極上のドヤ顔

あるラジオ番組で「小田さくらは『私、上手いでしょ』って歌う」と、佐藤優樹が発言したことがある。

これまでのアイドル的な文脈で考えるなら、それは「悪い上手さ」につながると考えられる。そういう鼻にかけた態度はファンに嫌われるので止めましょうという話になりそうだ。

ところが、この文脈では「それが大切」という結論になる。これは実は、ハロプロのレコーディングディレクター(おそらくシャ乱Q・たいせい)が12期に向けた発言だという。

ディレクターさんが12期に歌を教えてたのね。
そのときに言ってたのが「小田は『私、上手いでしょ』って歌うねん」って(笑)。でも「それがいい」ってすごい言ってて、「(12期にも)そういうの必要だよ」って。

これに対して当の小田さくらも「最近なくすようにはしてますけど、自信なさ過ぎないようにはしてますね」と答えている。というより、ラジオ番組で小田さくら本人に「いま現役メンバーで誰の歌が好きですか?」と聞かれてこのエピを語る佐藤優樹もたいがいだ。

自信に満ちていることが醸し出す魅力というものがあって、スキルに裏打ちされてるからこそできる仕草や表情が間違いなくある。ドヤ顔というと下品ではあるが、実際に歌えるし踊れるからこそできる笑顔がある。

小田さくらを見ているとそう感じるし、踊っている石田亜佑美を見ていてもそうおもう。他に、例えば雑誌ananのインタビューなどで同じようなことを語っているメンバーも多い。

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けっきょく自分は「上手い歌が聞きたい」っていうよりも「私、上手いでしょって本気でイキってる小田さくらの笑顔」が見たいのだ。

ふつうの歌謡曲の歌い手としては歌唱力がちょっと足らなくても、その足らない分が「かわいさ」をさらに引き立たせるならアイドルとしては結果オーライなわけだけど、逆に歌唱力は足りていて、なんならちょっと超えていて、その超えた分が「かわいさ」をさらに引き立たせているのがモーニング娘。の現在形なのだ。

そういう「かわいさに転化できる」ような上手さを目指すことが、ひょっとするとアイドルとしての「いい上手さ」ということにつながるのかもしれない。

これはもうお好きならたまらないし、そうでなければ「スキル厨」のひと言で済まされそうな話ではある。とはいえ、ダンスと歌が上手い女の子が見たいならダンス&ボーカルグループだとか、あるいはK-POPでもいいかもしれないけれど、もっと適した枠はほかにある。あくまでアイドル枠の真ん中から、枠をぐっと押し広げてるところが好きなんだなあ。


「フラリ銀座」と両A面の66thシングル「自由な国だから」には自信に溢れた表情が次々と現れる

それはハロープロジェクト全体の方向性にもなっていて、モーニングの隣ではアンジュルムの面々が、思い思いの得物を手にアイドルの枠そのものを蹴倒しにかかっている。強い。


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