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表参道で働くシニアのブログ

ディランにて / 西岡恭蔵

もう10年くらい前になるが、今はなくなってしまった北関東の小さなジャズ喫茶兼ライブハウス(→AKUAKU1979-2000)でこのひとのライブを見たことがある。そのときはプカプカ*1を作ったひと、として知ってるだけで、アルバムをまだちゃんと聴いてなかった。プカプカにしても有名なディランII*2がやったほう(ASIN:B00006IIB3*3をどっかで聴いてたんだろう。ライブの内容がどうだったかは、生来の鶏頭のせいで、編成がどうだったかも判然としない。ソロだったような気がする。プカプカはアンコールでやったと思う。

客席に、地元のロックンロール然としたお兄さんが何にんかいて、フォークソングのライブにはあまり似つかわしくないのにと不思議だったんだけど、終演後の打ち上げでそれは氷解した。西岡恭蔵は矢沢永吉に詩を何曲も提供していたのだ。そして、目の前にいるどちらかというと朴訥とした雰囲気のおじさんと世界のヤザワがすんなりと結びつかなくて、なんかおかしかったのを覚えている。

ディランにてってアルバムタイトルは「人名+所在を表す格助詞」なわけで、これはかなり意味深だと感じたんだけど、実際のところそんな深読みは無意味であって、これは単に難波に実在した喫茶店のことだ。もちろんそれはボブ・ディラン(→All Music Guide: Bob Dylan)から取られたんだけど。

この店が関西フォークシーンの巣窟であって、ここで大塚まさじと西岡恭蔵が出会い、ザ・ディランというフォークグループが結成され、プカプカという名曲が生まれ、偶然から西岡が脱退してディランIIとなり、ともに1972年、西岡はベルウッド、ディランIIはURCという当時のフォークシーンを牽引した2大レーベルからデビューする、といった歴史は日本ロック史の基礎知識なので覚えておくように(来週の中間試験に出まつ)。いや、別にそんなことを覚える必要はないんだけれど、この店が西岡のホームグラウンドであり、出発点であったということなんだろう。

後年、世界を旅し、アルバムやバンドに南米旅行カリブの嵐NEWYORK TO JAMAICAなんて名前を付けた西岡だけど、このデビューアルバムではまだ大阪難波の行きつけの喫茶店にいる。ごく私的なアルバムであり、ありのままの24歳の大阪の青年が歌われている。この後、朴訥なものをスタイリッシュに見せることにかけては天才といえる細野晴臣と組むことでティンパン系の名盤をものにする西岡だけど、このアルバムではただ単に朴訥だ。うたも、曲によっていちばん高いところが出てないように思えるところもあり、はっきりいうとあまり上手くない。でも、とても味がある声をしていて、ぶっきらぼうに聴こえるのに人をひきつける歌である。

このアルバムに収録された12曲の中では、ディランIIもやってるサーカスにはピエロがやさっきからさんざん出てきたプカプカが有名だけど、ボクが夜中に泥酔したときなどにリピートするのはそれじゃあない。喫茶店ディランをのんびりとした風景の中におさめた下町のディラン、そして抽象的な歌詞が青年期の放浪願望めいた心象風景をまさにジャケ写のような雰囲気で切り取った君の窓から。この2曲が白眉だ。

ディランにて

ディランにて

ところで、後になって永ちゃんのセルフカバーのベスト盤(ASIN:B00005GMAY)で西岡が矢沢に提供した詩をまとめて何曲か聴くことがあったのだけど、まるで別人かと思うようなスタイリッシュで都会的な世界に戸惑ってしまった。これは永ちゃんが歌っているからそう聴こえたのか、それとも自分では歌わない世界観が西岡の中にはあったのか。そういえばボブディランというひとも、都会的なんだか田舎もんなんだかわからないところがあるなあと思った。

関連リンク

西岡恭蔵 ホ−ムペ−ジ
公式ページ。今年になってからも微妙に更新されているようです。
西岡恭蔵&KURO追悼コンサート
高田さんちは親子(→高田漣/ララバイ  レポート 表紙)で参加。HONZI(→honzi)の名前も。
西岡恭蔵 [The Voice Of Silence]
死ぬなよ、アホという言葉がとても切ない。
矢沢の作詞家 西岡恭蔵 [犬鴨]
矢沢ファンから西岡に至った方のページ。提供曲は34曲あるそうです。その34曲から選んでベスト盤を編んだ方もいらっしゃいます(→心やさしき人たちのベスト・セレクション_西岡恭蔵スペシャル)。
大塚まさじホームページ
ザ・ディランの盟友。ディスコグラフィーを見ていると、1991年の競演盤がこの22日に再発されると書いてあります。
Early Times Strings Band「吉祥寺おばけ屋敷 1971-1974」
「ディランにて」のドラムがすごい好きなんですが、この林敏明さんは後に鈴木茂のハックルバックに参加したということがこのページに書いてありました。なるほど。それから、この項と直接関係はないですが、アーリータイムス ストリングスバンドの「Early Times Strings Band VOL;1」は禿げしくオススメです。

*1:さいきん「Discover URC」(ASIN:B00009NK73)というアルバムで、大西ユカリがこの曲をカバーした。これは名演であって必聴

*2:「ディラン・セカンド」と読むます

*3:「男らしいってわかるかい」というタイトルからは想像できないが、ボブ・ディランの「アイ・シャル・ビー・リリースト」のカバーも収録されていることでも知られる