in between days

表参道で働くシニアのブログ

ぼくらが旅に出る理由

「僕ら」とか言ってるけど、別にこの曲の「僕」は旅になんか出ちゃいない。旅に出てるのはたぶん「君」で、僕は(たぶん)東京からニューヨーク(摩天楼ってほかにどこを想像する?)にいる君に長い手紙を書いたりする(何を書いたかはナイショだってさ)。

ついで言うなら「理由」なんかコレっぽっちも説明されてない。

ぼくらの住むこの世界では/旅に出る理由があり
誰もみな手をふっては/しばし別れる
「理由があり」ってさー、ベイビィ。その「理由」がなんなのかってのが、この曲の主題じゃないのかい? ひとつ教えてくれないだろうか、何の理由があって旅に出るのかって。


「どうして旅に出なかったんだ?」(→DRIVE meets 喫茶ロック

日本の誇るビート詩人フォーク歌手である友部正人はそう歌った。小沢健二がこの曲で歌っていることはその裏返しだ。「どうして旅に出たんだ?」

いや「どうして?」って言われてもさあ「理由があったから」なんだよねえ。

禅問答をしてるつもりはない。つもりはないが、そういうことなのだ。理由はないが「理由がある」から旅に出てみた。んでもって実際のところ、小沢はこのアルバムのあとしばらくは東京にとどまっているが、やっぱり旅に出てしまう。

次のアルバム『球体の奏でる音楽』の2曲目が北欧っぽいというのはすでに述べたが(→in between days:ブルーの構図のブルース その2)、そのコメントでDutchさんは4曲目「ホテルと嵐」を「色彩の濃いイタリア半島〜ギリシャあたり、地中海南部の情景」と喝破している。北欧から南欧へ。ちょっとした地域の差はあるが、『球体の奏でる音楽』は明らかに旅先からの1枚だろう。

僕らが旅に出るのに説明できるような理由なんかない。理由なんかないけど僕らは旅から帰ってきて、しばし休んで、また旅に出る。平成のビート詩人たる小沢健二の面目躍如。成田の空からひたすら上昇していく飛行機を見つめるように、この曲はひたすらアッパーに上がっていく。まず君が旅に出た。次は僕が旅に出る。まさに、セカンドアルバム『ライフ』の終演を飾るにふさわしいチューンである。

ところでこの曲はアルバムが出てから約1年半後の1996年5月に、何で今さらって時期に突然シングルカットされている。ドラマ「将太の寿司」主題歌だったらしい。