in between days

表参道で働くシニアのブログ

エレカシ 1994〜1998/名曲「今宵の月のように」は蕎麦屋のゼンザイだ。

オレのiPodには『エレカシ 1994〜1998』というアルバムが登録されていて、もちろんそんなアルバムが実際にリリースされたことはないわけだが、これはエピックからFAITHへの移籍前後の5年間にリリースされた音源から自分なりの基準で選曲したベスト盤だ。

選曲基準はたったひとつだけ――「少しでも甘い曲は外す」。

つまり徹底してハードな曲を集めてみた。そこにアクセントとしてアコースティックものをいくつか散らして、こんな構成になっている。

  1. ドビッシャー男 (▲)
  2. 戦う男 (■)
  3. かけだす男 (▲)
  4. この世は最高! (●)
  5. おまえと突っ走る (▲)
  6. せいので飛び出せ! (■)
  7. 涙 (●)
  8. 極楽大将生活賛歌 (●)
  9. 男餓鬼道空ッ風 (●)
  10. 涙の数だけ (◆1)
  11. 石橋たたいて八十年 (◆2)
  12. 甘い夢さえ (●)
  13. 赤い薔薇 (■)
  14. うれしけりゃとんでゆけよ (▲)
  15. 月夜の散歩 (■)

この期間は、内容的にはまったく万全磐石であったにもかかわらずセールス的には厳しかった『奴隷天国』の反省からか、ただ独自のバンドサウンドを極めるだけでなく、多方面にアレンジメントや曲調の多様性を求めて、いろいろな手法を貪欲に試してみたり取り入れはじめた時期である。喩えるなら、老舗の頑固な蕎麦屋がついに甘味をはじめたようなものではないかと。

オヤジさんの作る蕎麦は日本一なんだけどさ、いまどき蕎麦だけじゃ食っていけないですよ。親父さんほどの腕があれば蕎麦だけじゃなくって、蕎麦ゼンザイなんて置いてみたらどうでしょう? 中年客だけじゃなくって若いカップルなんかも来てくれるでしょうし、女連れで入りれない店ってのはさすがに敷居が高くて……。

と言われたのか自分で決断したのかは知らないけども、とにかく蕎麦ゼンザイやら餡蜜やらもはじめてみた。元もと腕も舌も確かであり、瞬く間に極上の甘味を完成させ、いまや蕎麦屋だったか甘味処だったか客もいろいろなものを注文しては満足するという大入り満員の状況。

その極上のこれ以上はないというゼンザイが「今宵の月のように」である。これは「エレカシの〓」なんて枕詞をまったく必要とすることのない、フツーの日本語の歌として、まごうことなき名曲である。ひとりの男の寂しさと新たなる決意をサラリとそれでいて熱く歌い上げた歌詞、ソングライター/メロディメーカーとしての宮本の素晴らしき力量、シンガーとしての歌心、それらを余すことなく閉じ込めたエレカシ究極の一曲である。

であるのだが、それでもオレはこの曲を良しとはしない。なぜなら、オレはこの店はあくまで「蕎麦屋」だったことを知っているから。そしてこの店では酒を呑んで蕎麦を食いたいから。

オヤジ、一本つけてくんねえ。それから天抜きと玉子焼きね。あとでモリを2枚。

みたいな心積もりで選曲すると、上のような感じになるわけです。ゼンザイが好きな方でもたまにはこういう偏った聴き方も良いとおもいますよ。ぜひお試しください。

● from 東京の空 (1995)
▲ from ココロに花を (1996)
■ from 明日に向かって走れ (1997)
◆1 from シングル「はじまりは今」C/W (1998)
◆2 未発表曲 (1995) [from sweet memory 初回限定盤]