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表参道で働くシニアのブログ

風/古くて新しい音

『風』は今までのエレカシとはどこかが違う、何かちょっとだけ違うバンドを聴いているような気がしていたのだが、何度か繰り返し聴いていてようやく分かった。『風』には失笑ポイントがない。

古い話になるが、奴隷天国リリース時の恒例「夏の野音」(当時はどう考えてもう秋になってからやってた)で、一曲目がいきなり奴隷天国。まずバンドのメンバーが先に出てきて、トミがあのビートを叩きだす。そしてイントロに乗ってミヤジ登場! 両手を叩きながら客を煽る煽る……わけだが、これがもう阿波踊りとカニ歩きを足して歌舞伎の見得を振りかけたようなギクシャクした動きで、客席はもう大盛り上がり「なんだー、あの変な動きはー!!」大笑い。そして大感動。

というようなエピソードからわかるように(わかるのか?)、ミヤジには世間や時代からちょっとズレた「変な人」回路が埋め込まれていて、それがまたトンでもないテンションとパワーでメーターの振り切る「ズレ」なので、変さが一周して「カッコ悪いことはなんてカッコ良いんだ」というか、とにかく苦笑と失笑を伴いつつも客を有無を言わせずミヤジワールドに持ち込むというのが常だった。それはテレビなどのインタビューの噛みあってるんだかわかんない1人ごちまくりの無闇に饒舌な語り口でも同様である。

レコード制作にあたってもやはりそれはあって、「極楽大将」ってのはなんだよ、しかも「生活賛歌」ってさー。みたいなのから、「お父さん今夜は機嫌が悪いわ」って歌詞はアリなのか? とか、常に世間で流行っている音やカッコイイとされている歌詞から一歩も二歩も離れて、離れすぎたんでドブに片足落っこちちゃって、でも落っこちたままザクザクと疾走し続けているような唯我独尊っぷりがエレカシなのであった。

しかしだ。この『風』にはそういうところが無い。このアルバムは良く聴くといろいろな曲調に挑戦している。にもかかわらず、すべての曲が「まさに2004年に通用するギターロックサウンド」として鳴らされていて、一片の隙も感じられない。確かに歌詞だけ読むといつものミヤジワールドもあるのだが、それを重ねられたギターの音とアレンジの力で見事に違和感無く仕立て上げられている。

だが、じゃあそのアレンジが最新式の今までエレカシになかったような音かというとそんなことはなく、相変わらずのトミのドラムだし、というかもう全編になんの衒いもなく大きな音でフューチャーされているトミのドラムはこころなしか古臭く、いやー70年代ロックやなあという印象なのだが、そこに何本ものギターが重ねられることで、2000年代式のハードロックとしか言えない音になっている。そこに不思議があるのだが、これはギターも弾いている久保田光太郎の影響なのかどうなのか。

じゃあ、ギターが新しいのかというと、そんなこともなく、基本的にはリフで押していくいつものエレカシ流のツェッペリン・サウンドであって、というかもうこのアルバムはどの曲も、どんな曲調であっても、徹底してトミドラム+リフギターの古き良きエレカシの流儀を貫いている。にもかかわらずここで鳴らされているのは紛れもない2004年の音なのであって、そこがオレのような楽器の素人からしてみると、どういう魔法が使われているんだろう?というかんじで実に不思議で面白い。

そして、特筆すべきは、このアルバムはほとんど甘さを見せない。最新型のエレカシ流ハードロックのアレンジでアルバム一枚を乗り切ってしまう。素晴らしい開き直りっぷりであって、まさに天晴れとしか言いようがない。ロックファンを自認するひとは、このアルバムを聴かずして2004年を過ごしてはならんだろう、と思った。

風
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