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表参道で働くシニアのブログ

ジャズジャイアンツのいないジャズ名盤ガイド

最近読んだジャズのガイドブックが2冊あって、2冊とも面白かったので紹介。

1冊が『B級ジャズ名盤迷盤101』で、60年代にジャズ喫茶でジャズ青年に良く聴かれた隠れ名盤的な渋めなセレクト。

B級ジャズ名盤迷盤101―60年代のジャズ喫茶で輝いた101枚 (CDジャーナルムック―Super disc selection)

もう1冊は身もフタもなく『フュージョン決定盤101』というタイトルで、'70〜現在の「売れ線」をバッチリ押さえてくれる。

フュージョン決定盤101 (CDジャーナルムック SUPER Disc SELECTION)

ジャズっていうのはもう「歴史」が一回終わっちゃってるジャンルなので、名盤ガイドっていうことになると出てくる人物も盤も書いてあることもフォーマットが決まってきちゃう。だいたいバップ〜ハードバップが厚くなってて、パーカーのところにいたマイルスが黄金クインテットでコルトレーンや……を中心にモンク、ロリンズ、エヴァンス……

っていうジャズ保守本流の歴史はもうみんな知ってることとして、ほっとんど無視して構成しちゃってるところがこの2冊に共通してて、そこが面白い。もちろんマイルスをまったく出さないジャズガイドなんて成立しないけど、できるだけ視野に入れないように頑張ってる。そこがいい。頑張って頑張って視線を傾けてジャンルを偏らせて素晴らしいガイドブックが出来上がってる。ホントにすごい。

B級ジャズ名盤迷盤101

『B級ジャズ』のほうは、60年代だからマイルス大活躍時代だけど、「B級」ってわざわざ謳うことでジャズジャイアンツお断りをうまく演出してる。実際に紹介されてるのは、アダレイ兄弟にズート・シムズにブッカー・リトルにレッド・ガーランドにソニー・クラークにゲイリー・バートンにジミー・スミスにマリオン・ブラウンにロイ・ヘリンズにジム・ホールにハービー・マンみたいな感じで、A級といってもおかしくない人も多い。ただし超A級はいない。そこがミソ。

キャノンボール・アダレイ・イン・サンフランシスコ+1

あと「ジャズ喫茶」がもうひとつのテーマだから日本人好みの穏当なセレクションに偏ってるのかな。そのあたりでガイドブック的な「お勉強」な感じじゃなくって聴いて楽しい「実用」な雰囲気があって読んでても楽しい。聴いたことがない盤も多いので順に聴きたくなる。こういうのはやっぱジャズ喫茶でリクエストして聴くのが正しいのかも。

フュージョン決定盤101

一方の『フュージョン』のほうは、なんと前書きでいきなりコルトレーンの話をしてる。なんでかっていうと、1967年のコルトレーンの死でもってフリージャズ(クソ真面目な売れないズージャ)は死んだ! だから70年代は売れ線の時代なんだぜキャッホー! という理屈のために出てくるんだけど、そんな話をわざわざしてるってのは上の本の「B級」みたいな防波堤なのであって、つまり70年代のクソ真面目なズージャの話もしようとおもえばいくらでもできるんだけど、この本では一切しません! という宣言なのだ。コルトレーンの死でもってズージャは死にました、という手垢の付いた書き割りのようなレトリックを持ち出すことで、フリーインプロの侵入を防ぎ、心ゆくまでクルセイダーズやクインシー・ジョーンズの話をしよう、というわけだ。

しかし、コルトレーンは死んでくれたからいいようなものの、心ゆくまで売れ線フュージョンの話をするためにはもっとでっかいやっかいなものを片付けないといけない。そう、70年代フュージョンの生みの親とも言っていいかもしれない「エレクトリック・マイルス」の扱いだ。実は本書でも電化したマイルスはちゃんと出てくる。2枚取り上げられている。そのセレクションが絶妙だ。まず1枚目が「ジャック・ジョンソン」。

【Blu-spec CD】ジャック・ジョンソン

ジャズ・ロックの名盤w ジャズを電化させた「イン・ザ・スカイ」でも「イン・ア・サイレント・ウェイ」でも。名盤「ビッチズ・ブリュー」でも、「オン・ザ・コーナー」でも、もちろん断じてアガパンではなく「ジャック・ジョンソン」。そしてもう一枚が、80年代マイルスから、と書けばもうだいたいお察しの通り、シンディーローパー「タイム・アフター・タイム」とマイケル・ジャクソン「ヒューマン・ネイチャー」のカバー収録でおなじみ「ユア・アンダー・アレスト」。

【Blu-spec CD】ユア・アンダー・アレスト

数多い電化以降のマイルスの中から「ジャック・ジョンソン」と「ユア・アンダー・アレスト」の2枚をセレクトしているところに、このガイドブックがよく現れていましょう。デオダードやスタッフと並べても違和感無くワン・オブ・ゼム感があり、それでいて中山「マイルスを聴け!」康樹先生もきっと納得いただける名盤でもあるこのセレクションが素晴らしい。

あとハンコックが「ヘッド・ハンターズ」でなく「スラスト」。リターン・トゥ・フォーエヴァーはS/Tの1枚目でなく「ライト・アズ・ア・フェザー」というところに微妙なこだわりを見せます。ロック界からもベック先生(ハンセンじゃないほう)とスティーリーダンが参戦。ジェフ・ポーカロの名前は見えますがTOTOは無し(あとプログレ方面も無いようです)。日本人もナベサダ、ヒノテル、渡辺香津美、菊地雅章あたりは当然として、カシオペアやスクエア(もちろんF1のアレ)までちゃんと紹介。上原ひろみまで入ってます。

もちろんウェザー・リポート方面、パット・メセニー、ブレッカー・ブラザーズ、ラリー・カールトン、リー・リトナー、さらにスパイロ・ジャイラ、ケニーG、マンハッタントランスファーときらびやかこの上ないセレクションにあの素晴らしかったバブル時代を思い出して感涙にむせぶ四十路のおっさんも多いのではないでしょうか。さあ、あのころみたいなでっかい肩パット入ったスーツを着ようぜ! そんなポジティブシンキングに浸らせてくれるジャズガイドブックもなかなかないといえるでしょう。

んで、別々に読んだので気がつかなかったけど、並べてみたらCDジャーナルの同じ「Super Disc Selection」というガイドブックのシリーズで、ほかに「中央線ジャズ決定盤101」とか「101人のこの1枚」なんてのもあるらしい。気になるなー。