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表参道で働くシニアのブログ

BS1の「そして街から人が消えた~封鎖都市・ベネチア~」は、誰もいない都市の寂しさをとても美しく記録した番組だった

NHK BS1で4月19日に放送されたコロナ関連のドキュメンタリー「そして街から人が消えた~封鎖都市・ベネチア~」。録画していたのを1カ月ほど経ってようやく見た。すごく印象的な番組だった。ひとつは映像の美しさ、もうひとつは時の流れの不思議さを見せつけられたことで。

ベネチアは2019年の秋に高潮の自然災害で大きな被害を受けた。それから3カ月後、2月8日から25日まで開催される伝統の仮面カーニバルは、多くの観光客にベネチアの復興をアピールする機会となるはずで、おそらくNHKはその最高潮の盛り上がりを美しい映像で記録しようと、取材をはじめていたのではないだろうか。

ヴェネチアの大部分が浸水、過去50年で最悪の高潮 - BBCニュース(2019年11月14日)

ところがカーニバル開催時点ではイタリア全土でわずか3人だったコロナウィルス感染者は、北部イタリアを中心に爆発的な感染拡大が起き、カーニバルは残り2日を残して中止に。そして、開始から1カ月後の3月8日には街全体がロックダウンされてしまう。

ベネチアで開催中のカーニバルが中止 新型コロナ拡大で:朝日新聞デジタル(2月23日)

それによって番組趣旨もそのままコロナ関連にスライドしてしまったのだろう。つい何週間か前までカーニバルを楽しむ人たちであふれていた街路から、人出が7割減少どころではない、人っ子ひとりいない風景へと、映像はシームレスに移り替わる。それはウィルスの恐ろしさを感じさせる寂しい風景でありながら、奇跡的なほど美しい。

都市封鎖をうけて取材班も直に帰国したのだろうが、取材に応じてくれたカーニバル関係者がそれぞれのスマートフォンで撮影した4月上旬の近況と、カーニバルの開始からおよそ2カ月後のメッセージで番組は締めくくられる。そこには「今となっては」という想いがあふれている。日本でも4月7日に緊急事態宣言が発令され、番組が放送された4月19日には東京都で新たに107人が感染確認され累計3千人を超えた。

カーニバルの華やかな催しにも「都市封鎖まであと✕日」とキャプションが重なる。ありがちな近未来もののアニメか何かかのようだけれど、2月の映像に対して未来の出来事として描かれる都市封鎖は、いま番組を見ている私にとってはすでに起きてしまった過去の出来事だ。

NHK 番組表 | BS1スペシャル「そして街から人が消えた~封鎖都市・ベネチア~」 | 2020年5月24日(日) 午後11:00~午後11:50(50分)

NHKはコロナ関連のドキュメンタリーを繰り返し再放送しており、これを書いている5月24日の夜にも予定されているが、同時に週明けには日本全国で非常事態制限が解除される方向で調整中というニュースが流れており、2カ月半にわたって厳しい外出制限が課せられたイタリアでも4月下旬から制限の緩和がはじまっている。

イタリア首相「夏にはすてきな休暇が待っている」 | ニューズウィーク日本版(5月11日)

今晩(24日)の再放送が見れなくても、BSのドキュメンタリーはよく再放送されるし、オンデマンドの有料配信もされている。おそらく、まだ息苦しかった4月19日に見た人と、復帰に向かっているいま見るのとでは印象が違うのだろう。時の流れの重層的な不思議さを感じる番組だった。

そして、コロナウィルスのロックダウンによる「誰もいない都市の静寂」をこれほど美しい映像で残したドキュメンタリーもないのではないだろうか。

ベネチアは数百年前にペストの被害も受けている。カーニバルで人気の仮面「ペスト医師」のくちばしが長いのは、先に薬草を詰めたためという。ほかに花束が身を守るともされていたそうだ。

(十選)経済でみる名画(5)カナレット「ベネチア 大運河のレガッタ」 公認会計士・作家 田中靖浩 :日本経済新聞