in between days

表参道で働くシニアのブログ

森村泰昌・矢後直規・津田青楓・関根正二を見ることができた2020年3月のアートシーン

4月はじめから50日近く続いた緊急事態宣言も解除され、東京近郊の美術館や博物館も次々と再開をアナウンスしている。休館中に開幕予定日を迎えてしまった展示では会期を延長したところも多く、これからまた楽しい展示巡りができると嬉しい。

という気持ちを込めて、毎月まとめてきた展示の2月分と3月分をあわせて更新しました。

最後に見た展示から逆順に振り返っていこうとおもっていて。まずは3月。国立や都立の施設はほぼ休館で、とにかくまだやっている展示をやってるうちになんとか見ておこうと考えていた。いくつかを除いてギリギリまで見て回れたのではないかとおもう。

美術館博物館の休館は何度かの波があり、2月末に国の専門家会議が見解を発表したころに多くの美術館が休館を決定し、急にアナウンスされて見れない展示もいくつかあった。3月末に都から外出を控えよとの緊急会見後でまた休館があり、4月7日の緊急事態宣言急でだめを押した。

森村泰昌 エゴオブスクラ東京2020 さまよえるニッポンの私

原美術館で1月25日に開幕した森村泰昌の最新映像作品「エゴオブスクラ」を中心とした展示。

原美術館 | エゴオブスクラ東京2020―さまよえるニッポンの私

2月29日にいったん休館となり、2週間ほどでいったん再開したが、またすぐに休館を余儀なくされた。その再休館前日の夕方にギリギリで飛び込んで、肝心の映像作品の最終上映はもうはじまってしまっていて見れなかったけど、それ以外でも十分に強い展示だった。

檄文が力強い。

もう見れないかとおもっていたけれど、会期を7月まで延期して再開するそうだ。


ふつうの系譜 京の絵画と敦賀コレクション

府中市美術館で3月14日に開幕した江戸絵画の展示で、タイトルはもちろん「奇想の系譜」が元ネタになっている。

春の江戸絵画まつり ふつうの系譜 「奇想」があるなら「ふつう」もあります─京の絵画と敦賀コレクション 東京都府中市ホームページ

敦賀市立博物館のコレクションをベースとして、江戸時代に「ふつう」の画風として広く流通してきた作品の展示なのだが、困ったことに「これは普通ではないですよー」って比較で並んでいる「奇想」の絵画のほうがおもしろいのはどうしたものか……。

「ふつう展」の開幕と閉幕、これからのこと – 「ふつう展」日記

ということで後期展示に行くか悩んでいたが、どうやら中止になってしまった。

矢後直規展「婆娑羅」

アートディレクター、矢後直規による初の大型展示。ラフォーレミュージアム原宿で、3月8日まで開催された。

矢後直規展「婆娑羅」 - ラフォーレ原宿

たまたま矢後氏本人が会場を案内するタイミングに居合わせて、その話がすごくよかった。路地のような作りにしたという会場がおもしろくて写真を何枚も撮った。


生誕140年記念 背く画家 津田青楓とあゆむ明治・大正・昭和

コロナが流行りはじめたころに開幕した練馬区立美術館の展示。緊急事態宣言のギリギリが閉幕で、最後までやっていたようだった。

生誕140年記念 背く画家 津田青楓とあゆむ明治・大正・昭和 | 練馬区立美術館

青年期に図案化として活躍し、50代になって一時期プロレタリア運動に傾倒した油彩画を書きながらも、1933年の逮捕を機に転向。以降は戦後も日本画家として南画を書いた。

という経歴に沿って、あまり脈絡の感じられない異なる3系統の作品が展示されていて不思議な気持ちになる。図案の中にはかなりモダンで抽象的なものもあり、この方向で油彩を書けばよかったとおもうのだが、油彩ではたぶんセザンヌあたりの影響を受けてそうだった。

近代を超克しようとした画家の生涯。横山由季子評「背く画家 津田青楓とあゆむ明治・大正・昭和」展|美術手帖

見どころは、国立近代美術館所蔵の《犠牲者》で、これは小林多喜二の獄死を描いた作品。このあたりだけ、世界観がダークサイドに全振りされている。50過ぎで書いたプロレタリア絵画と、転向してから専念した平和な南画とのギャップがすごい。その前後に書かれたモノクロームな人物画がもっともよかったという印象。

国立近代美術館は、この絵と藤田嗣治《アッツ島玉砕》を左右に、真ん中に横山大観が戦時中に書いた富士山でも並べて展示してほしい

モーリス・ユトリロ展

日本橋高島屋S.C.で3月に2週間だけ開催された。国内企業のコレクションをベースにしたもので、高島屋では定期的に開催されているようだった。

後期の作品はたしかにどんどん類型化していくんだなというのがわかり、ピークの時代とそれ以降を見比べたりするのがおもしろかった。

モーリス・ユトリロ展(日本橋髙島屋 S.C. 本館 8階ホール)|美術手帖

同時期に横浜や京都などの高島屋をあわせてユトリロ、若冲など3つの展示を回り持ちで開催する予定だったようだけど、巡回は中止になっていた。

越境者たち BEYOND THE BORDERS 目黒区美術館コレクション展

コロナでほかが中止になってる状況じゃなかったら、たぶん足を運ばなかったかもしれないけど、パンリアル美術協会について知れてよかった。

目黒区美術館コレクション展 越境者たち-BEYOND THE BORDERS

生誕120年・没後100年 関根正二展

鎌倉の鶴岡八幡宮のちょっと先にある神奈川県立近代美術館の鎌倉別館で開催された関根正二の回顧展。福島と三重の各美術館の収蔵作品や資料を中心に構成され、各館を巡回してきた。

生誕120年・没後100年 関根正二展 | 神奈川県立近代美術館

なにしろ二十歳で夭折したひとなので、作品がたくさんあるわけではないが、こうやってまとめて見られるのはよかった。アーティゾン美術館所蔵の《子供》は来てなかったけど(福島には出てた)、同館の開館展に出ていたためでそっちで見れた。

実は2月中あった前期展示にも来てたのだけど、主要作品のうち大原美術館所蔵で重要文化財の《信仰の悲しみ》が後期展示のみで、東京近代美術館で常設展示もされる《三星》などと違って気軽に倉敷まで見に行くのは難しい……ということで、あらためて見に来た。

晩年の作品は印象的な赤だったり色彩が独特でずっと見てられて良かったのだけれど、裸足で横向きに草原を歩く女性などそれなりに類型化してる感もあった。

村山槐多《ヒバリする裸僧》なども同時期の関連作として出ていて、ということから経歴をあらためて調べていて驚いたんだけど、関根と村山がほぼ同時期に亡くなってるのはスペイン風邪が原因だったのか……。

間に合わなかった展示たち

コロナ前から開催されていて、休館になる前に見ておきたかったのだけれど、急に休館されてしまって間に合わなくて見れなかった残念な展示が2つあった。

白髪一雄|東京オペラシティアートギャラリー

モダンデザインが結ぶ暮らしの夢展 | パナソニック汐留美術館

緊急事態宣言中に開幕を迎えた展示は、おおかたが6月から開幕と会期を延長しているけれど、そうならずそのまま中止になった展示もいくつかある。主だったものでは

特別展「法隆寺金堂壁画と百済観音」 - 東京国立博物館

ユネスコ無形文化遺産 特別展「体感! 日本の伝統芸能―歌舞伎・文楽・能楽・雅楽・組踊の世界―」 - 東京国立博物館 表慶館

ボストン美術館展 芸術×力|東京都美術館

とくに「ボストン美術館展」は残念だった。

引き続き、2月に見た展示の記事を追って掲載します。(追記)しました。

2月に1回だけ見れた「AI×美空ひばり」があまりにスゴすぎたのでもう一度なんとか体験したいという話