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表参道で働くシニアのブログ

今夜はブギーバック/あの大きな心

mohri2004-03-15


『エクレクティック』というアルバムは、もう何度も聴いてるわけだけど、今だにどう考えていいのかわからない。それまで原宿通りを風を切って歩いたり、土曜日の公園をローラースで滑って回ったり、一貫して街から街へと颯爽と彷徨していたはずの男が、JFKに降り立って5年もの沈黙の末にリリースしたこのアルバムでは、延々と家の中に引きこもっている。というかベッドルームにいる。しかも女と二人っきりでだ。どういう種類の引きこもりなんだこりゃっつーくらいエロい歌詞満載。でも歌として聴いてもあんまエロくない。頑張って延々と全編にわたってファルセットで歌っているけど、ちょっと微妙で困ってしまう。いや、マジで、コレってどうなの? 歌の上手さとしてさ。

じゃあ、ダメなアルバムかと言われると、そんなとこもなくって、こういうトラックにこういう歌を載せるってのはありそうで日本の音楽シーンには無かったような気がするし、いまオザケンナイトに向けて全オザケン楽曲をiTunesに放り込んでランダムでループ再生してるんだけど、このアルバムの曲だって別に違和感なく聴けるし、というかこんな夜中に聴く分には、こういう密室的な音楽はとても気持ちいい。いや歌詞をジッと見てるとこっぱずかしくなるけどさ。「痛快ウキウキ通り」なんかも歌詞は恥ずかしいけど、それとはまた違った感じ。JFKに渡る直前の「指さえも」や「back to back」でもちょっと密室的な恋愛関係をテーマにしてるけど、ここではまだベッドルームに入るまでの過程が主題になってて、『エクレクティック』の「事後」感とはやはりちっと違う。

ああ、そうか……。いま書いていて、書きながら考えながら書いてるわけだけど、上に書いたことで気がついた。20世紀の小沢は、一貫して「Hに持ち込むまで」のさまざまな出来事を歌ってきたけど、21世紀の小沢には「Hしちゃった直後」的な倦怠感がある。それが『エクレクティック』をなんだか「小沢っぽくない」と思わせてるところなんだろうな。



ということで「今夜はブギーバック/あの大きな心」だけど、これは小沢の出世作でもあるスチャダラパートの共演シングル「今夜はブギーバック」を8年後にリメイクしたわけで、『エクレクティック』が発売される前には、ただでさえ5年ぶりの突然のリリースでしかも前パブなんかほとんどなかったもんだから2chの小沢スレをはじめとしてあちこちのBBSで憶測が飛び交っている中、いち早く視聴テープを聴いた業界関係者が「『あの曲』を再録してる!」なんて思わせぶりに(ひょっとしたら解禁時期の関係で曲名出せなかったってのもあったのかもしれないけど)書き込んだもんだから「『あの曲』ってなんだー!?」とエライ騒ぎになった挙句にリリースされたのがコレで、ずいぶんとアッサリ風味なんでちょっと拍子抜けした。

で、この曲だけがやはり『エクレクティック』の中では少し浮いていて、というのは、さっき書いたことの裏返しで、このアルバムの中にあってこの曲だけが「Hに持ち込むまで」を描いているっていうところじゃないかという気がした。それが原因なのか、この曲だけちょっとノスタルジックな雰囲気があるように感じる。

そのノスタルジーがちょうど気持ちいい。オリジナルの「ブギーバック」は今聞くとちょっと「タルい」感じがする。やっぱ「ロマンスのビックヒッター」とか言われても……青い青春の風景そのまま過ぎる。「〜大きな心」版ではこの付近の歌詞はすっかり割愛されちゃっている。変わりにまるまるまったく新しく足されたパートもある。

やがて陽炎が空を焦がすこの街で
あなたに会えたよ それを最高に感じる
南へ行く高速道路 あなたと下る時
欲望と愛の行方を 見てる魔法のように

大人だ。そして何故かどこかノスタルジックだ。曲のなかに出てくる「パーティ」や「フロア」って歌詞も、オリジナル版は明らかに「クラブでナンパ」のノリだけど、エクレ版はちょっとした社交場でタキシード着てそうだ。あたかも変な仮面を着けた男が「戦場でラブロマンスか? お坊ちゃん」とか呟いてるとかな。

ということで、ほめてるのかけなしてるのかわかんなくなってきたけど、こういう落ち着いた感じの「ブギーバック」もなかなか良い。オリジナルもあまりBPM速くない落ち着いた曲調なわけだし、ひょっとしたら元もとこういう風に歌われるべき歌だったのかもしれないと思ったりしているわけです。

それにしてもラップパートが無くなってるってのに、曲の長さがほとんど変わってなくってともに6分強というのは、なんか妙な気がする。