ブギーバックが6分もあったり、ラブリーが7分だったり、長い曲が多い中でもひときわ長尺を誇る一大バラードナンバー「天使たちのシーン」なんと13分31秒とクレジットされている。1stアルバム『犬は吠えるがキャラバンは進む』のクライマックスであり、このアルバムの宗教的な雰囲気を決定付けた。
発売当時、この曲にあまりに感動したロッキンオンJAPAN誌編集長・山崎洋一郎(当時)が、全歌詞を手書きで掲載(だれが書いたんだろう?)するとともに、小沢がインタビューで言ってもいない「僕は救われたかったんだ」という言葉を大見出しに据えるという事件まで引き起こしている。
しかし、そんな大曲であるにもかかわらず、爆発的な「さぁ、ここで泣け!」とも言わんばかりの盛り上がりポイントがあるわけではなく、むしろどちらかというなら淡々と曲は進んでいく。
過ぎていく夏の海岸から飛び立った天使は、空に飛んでいく風船のように、10余分に渡って想像力と絶望の大空を漂っていく。駅に立つ小沢自身や夕立の中の子供たちといったどこか異国の印象を与える町の景色を見る。そう。この曲の中には空を飛びながらいろいろな風景を見て回っている「天使」がいて、同時に地上で何かを考え、信じ、決意している小沢自身がいる。その2つが2重合わせで歌われる。
やがては天使は枯れゆく草、枯れ落ちた木、冷たい夜といった自然に囲まれる冬の景色の中をゆるやかにさまよい、曲は徐々に山の尾根を登り、大サビに至る。
冷たい夜を過ごす 暖かな火をともそう
暗い道を歩く 明るい光をつけよう
いとおしさ、約束、祈り、そんな希望的なモチーフが小出しにされたあと、ついにここで控えめではあるがハッキリとした決意が提示される。暖かさと明るさを自らの手でつむぎ出そうという決意である。
そして枯れていたはずの枝が雪を払ってはね上がり、通りに笑い声がこだまするようになると、2度目の大サビの後で「カモン!」と小沢が呟く。ここがこの曲の山頂だ。リスナーは天使の翼にのせられてずいぶん高くまで連れてこられていることに気がつくかもしれない。ここまで10分もかけて、ゆっくりと上昇と下降を繰り返しながら上ってきたのだ。
そして、そこからの3分半でゆるやかに坂道を降りていき、どこかの街角に着地する。
神様を信じる強さを僕に 生きることをあきらめてしまわぬように
にぎやかな場所でかかりつづける音楽に 僕はずっと耳を傾けている
ここで完全に天使の視点と小沢自身が一致する。小沢が「カモン」と言い、それに応えて天使が降り立ち、リスナーさえも街角に現れて小沢と同じ場所に立っているように感じる。にぎやかな場所でかかりつづける音楽に、僕はずっと耳を傾けていくだろう。