日本には老舗企業が多い、というはなしは聞いたことがあったが、創業100年を超える会社が10万社以上あるとは知らなかった。こんなに老舗が集中している国はヨーロッパにもなく、アジアでは日本だけの特例なのだという。
大宅賞作家・野村進氏による日本の老舗企業ルポルタージュ『千年、働いてきました―老舗企業大国ニッポン (角川oneテーマ21)』は、ただそういった老舗を取材するだけではなく(おそらく先行する『老舗企業の研究―100年企業に学ぶ伝統と革新』などとの違いを考えたのだろう)、「なぜ日本にこれだけ老舗の企業が生き残ったのか?」を、おもに製造業つまり日本的な「ものづくり」企業が現代社会の中でどう創意しているかという取材から明らかにしていく。登場する企業と目次は以下の通り。
- 第一章 老舗企業大国ニッポン
- 第二章 ケータイに生きる老舗企業の知恵
- 第三章 敗者復活
- 小坂製錬(DOWAホールディングス、1869年:藤田組→同和鉱業)
- 第四章 日本型バイオテクノロジーの発明
- 第五章 ”和風”の長い旅
- 大日本除虫菊(KINCHO)(1885年〜)
- 呉竹(KURETAKE)(1902年〜)
- カタニ産業(1899年〜)
- 村上開明堂(1881年〜)
- 日本香堂(天正年間[1573..1593年]〜)
- 第六章 町工場 ミクロの闘い
- 第七章 地域の”顔”になった老舗企業
- エピローグ 世界最古の会社は死なず
- 金剛組(578年〜)
このうち西川産業・吉字屋本店・金剛組を除く16企業では、現代社会の変遷に合わせてどのように社業を変化させて来たかが語られる。小坂製錬(秋田県小坂)や戸田工業(広島)のように地元に密着した企業の事例がとくに印象深かった。
老舗製造業五つの共通項
全7章16企業の事例を通じて、「老舗企業が生き残る」法則のようなものが導き出される。本書の魅力はあくまでそこまでの多彩な事例にあるとおもうが、この「共通項」も興味深かった。本書では箇条書きになっているわけではないのだが、あえて簡単にまとめてみるとこのようになる。
- 同族経営に固執しない
- 時代の変化に対応する柔軟性
- 創業以来の家業は頑固に守る
- “分”をわきまえる
- 「町人の正義」
2と3が矛盾するようで同居しているところがおもしろい。この箇条書きだけではなんのことかわからないので興味を持った方はぜひ本書を読んでみられるとよいとおもう。
この中でも「“分”をわきまえる」という考え方は、以前に読んだアメリカの小さいながら着実に成功している企業のルポルタージュ『Small Giants [スモール・ジャイアンツ] 事業拡大以上の価値を見出した14の企業』の内容にも、国としての歴史の長さと企業文化の違いを超えて共通するところがあるようにおもった。また、日経BP「Tech-On!」に掲載されている仲森智博編集委員の連載コラム「思索の副作用」にも老舗企業が集まる京都的な「ビジネスのあり方」を考察した回があって、そこに出てくる「会社を大きくしないこと」という社訓にも通じるものでもあるように思う。
- 大きいことはエライことではない - Tech-On!
- 中国人が日本で買い漁っているもの - Tech-On!
- この回には本書にも登場した林原グループの「甘くない糖」のエピソードが
この本のダイジェストはNHKの「知るを楽しむ」でも取り上げられたようです。
- 長寿企業は日本にあり - NHK「知るを楽しむ」
千年、働いてきました―老舗企業大国ニッポン (角川oneテーマ21)
- 作者: 野村進
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- 作者: 横沢利昌
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Small Giants [スモール・ジャイアンツ] 事業拡大以上の価値を見出した14の企業
- 作者: ボー・バーリンガム,上原裕美子
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