O.D.A.さんのこの記事を読んですぐ関連したエントリーを書きたかったんだけど、なかなかまとまらなくて2ヶ月以上かかってしまった。
最近ふと思ったのが、最近日本はガールズバンドやメンバーに女性が混じっているバンドが非常に多いのに、海外それほどでもねえな、ということ。
「女がいる」バンドのこと - WASTE OF POPS 80s-90s
これと同じようなことを数年前から考えていて、同じことじゃなくて「同じような」というのは「女性が混じっている」のではなく、タイトルのとおりだけれど「男がいない」つまり「女のみ」のバンド、いわゆるガールズバンドのことだ。
日本では、どうも「ガールズバンド」というジャンルそのものが、特有の文化として独自に進化してる側面がかなり強くあるのではないか? という気がしていた。
もちろん諸外国にも女性だけのバンドはいる。O.D.A.さんの記事でも、世界初のall-female rock bandであるゴルディ&ザ・ジンジャーブレッズから紹介されている。だが、女性をフロントマンに立てたバンドや女性のシンガー・ソングライターに比べて、女性のみの現代のバンドとなるとパッと思い浮かぶにはサヴェージズくらいだろうか。
interview with Savages 「あなた何歳?」「黙れ」 | サヴェージズ | ele-king
例えば、 日本のシーンにおける「チャットモンチー」のような存在となると、どういったバンドが挙げられるだろう? 80年代に活躍したバングルズやゴーゴーズが思い浮かぶのはおっさんだからだろうけど、もっと新しくはどんなバンドがいるのだろうかと調べていたら、ウィキペディアにまとめっぽいページもあった。
こういうページを見ていても思うのだが、日本のガールズバンドと欧米のそれでは、音楽性や立ち位置にも違いがあるように思える。米国のall-female rock bandというと、80年代ポストパンクにおけるスリッツやレインコーツ、あるいは90年代のライオット・ガール(Riot Grrrl)に代表されるように社会的なメッセージ性が強く、オルタナティブな存在であり、インディやガレージなど特定のジャンルや方向性に片寄っている印象がある。
“Riot Grrrl(ライオット・ガール)”とは? - CDJournal リサーチ
ちょうど読んでいた『エレクトリック・ギター革命史』という本にも、ガールズバンドとガレージなど特定ジャンルの関係について、次のように書かれていた(強調と改行は筆者)。
多様な文化を背景とするガレージ・ロックのジャンルでは、いつの時代にも女性のパフォーマーが活躍してきた。この伝統はゴルディ&ザ・ジンジャーブレッズ、プレジャー・シーカーズ、ラヴド・ワンズ、リヴァーバーズなど、メンバー全員が女性というグループがいくつも活動していた60年代半ばの同ジャンルの起源にまで遡る。
これは幾度となく起こるガレージ・ロックのリバイバルで受け継がれ、パンドラズやジ・ヘッドコーティーズのようなメンバー全員女性のグループが人気を呼び、後者のリーダーであるホーリー・コライトリーなどは男性ミュージシャンと同等に高く評価されている。
最新のガレージ・シーンにおけるガールズ・バンドの勢いはことさら凄く、The 5・6・7・8's、ツナミズ、シーズ、サマー・ツインズなどのグループがアンダーグラウンドで大流行しているのだ。60年代半ばの赤いテスコ・デル・レイをプレイする日本のThe 5・6・7・8'sのギタリスト、Yoshiko Fujiyamaは、現在のガレージ・シーンの象徴のような存在だ
The 5・6・7・8'sの名前が上がっているのは、キル・ビルの影響だろうか。
この本は主に米国のジャズやブルース、ロックンロールにおいてエレクトリックギターがどのように発展してきたかを詳細に追った500ページを超える翻訳書で、さまざまなギターメーカーとギタリストを取り上げて、エレクトリックギターのハードウェアとソフトウェア両面からその歴史を紐解いていて、とてもおもしろかった。
エレクトリック・ギター革命史 (Guitar Magazine)
- 作者: ブラッド・トリンスキー,アラン・ディ・ペルナ,石川千晶
- 出版社/メーカー: リットーミュージック
- 発売日: 2018/02/23
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- この商品を含むブログを見る
ミュージシャンでは、チャーリー・クリスチャンから、レス・ポール、ビートルズ、ボブ・ディラン、ジミ・ヘンドリックス、エディ・ヴァン・ヘイレン……と革新的なギタリストが登場する。
上記は、ガラクタみたいなギターを敢えて使用するムーブメントの代表として、ホワイト・ストライプスのジャック・ホワイトについて取り上げたセクションの一部で、このように続く。
パンクとオルタナティブ・ロックは概して女性ミュージシャンに力を与える文化だが、60年代に爆発的に広まり、パンクのルーツとなったもう一つのレガシー、ガレージ・ロックも決して例外ではない。しかも活躍の場はガールズ・グループだけではないのだ。ガレージやパンクのジャンルとサブジャンルには共通して男女混合の編成によるバンドが多い。
ホワイト・ストライプスは確かに男女混合編成の代表のようなバンドで、なにしろ男女の人数比が正確に同数という極めて民主的なジェンダー構成になっている。キルズやイーヴンズもそうだけど。
- アーティスト: Evens
- 出版社/メーカー: Dischord
- 発売日: 2005/03/15
- メディア: CD
- この商品を含むブログ (28件) を見る
こういう傾向がどうして生まれるのか? について考えてみたのだけれど、ひとつの仮説として、欧米ではバンドに「男性がいない」こと自体がジェンダーの問題におけるひとつの社会的なメッセージとなっているのかもしれない。
というところまで考えてちょっと行き詰まってしまった。というのも、一般的に欧米のロックバンドは、メンバーに女性がいようがいまいが、日本のバンドより社会的なメッセージ性が高い。
オルタナ・ガレージ系とは対極にあるカントリーでも、ディキシー・チックスという世界で一番売れているガールズバンドがいるが(米国におけるカントリーの市場規模からそのようになるらしい)、保守的なオーディエンスを抱える彼女たちですら、2003年にイラク戦争を批判して政治的な論争に巻き込まれている。
それに比べると、日本のロックバンドはそもそも右派であれ左派であれ政治的な態度を取りたがらない傾向がある。だから日本の「男がいない」バンドが、男がいないことの社会的なメッセージをアピールしないことに意外性はそれほどない。
それではあらためて、ロックバンドに「男がいない」こと、そしてそういう種類のバンドが日本で広く聞かれていることには何が要因としてあるのだろうか?
これまたひとつの仮説だが、たとえば少女マンガや、古くは平安時代の日記文学など、女性のみの集団をベースとして生み出される種類の文化というものがある。日本のロックシーンにおいてガールズバンドにも、そういった文化性が求められているところがあるのではないだろうか?
とはいえ、そうなると今度は宝塚や女性アイドルグループと比較して考えないといけないようにおもえてくるので、さすがに広すぎてやっぱり考えがまとまらなかった。