in between days

表参道で働くシニアのブログ

情報を必要としている者が自ら情報を発信する文化について

12月。アドベントカレンダーの季節になりました。

この記事も「書き手と編み手のAdvent Calendar 2019」の1日目です。 1日目なので、なぜライターと編集者のアドベントカレンダーを立ててるのか(今年で3回目)ということについて書きます。

僕は、インターネットやオープンソースの話題を扱う編集者として、もうかれこれ25年くらい仕事をしています。ITエンジニアリングの技術解説記事には、ほかのジャンルと大きく違う特徴があって、記事の書き手と読み手がとても近い。ほとんど重なっているといっていい。技術書典というITエンジニアリング系の技術同人誌だけの即売会があるけれど、休日に、自分が仕事で使うであろう情報が掲載されている同人誌を買うために、1万人ものひとが池袋に集まってくるわけです。

ビジネス系のマーケティングセミナーのように商品を売りたいためでもない。人事担当者はリクルーティングに役立てばと考えるだろうけれど、当人たちにはそういった打算よりは、もっと単純に自分が仕事で得た知見を公開するのは楽しいし、人が公開している情報が自分の仕事の役に立つのはありがたい。どちらにしても嬉しいからこそ、大量の情報が勉強会や、ブログや、同人誌といった非商用の形で流通している。

休日に、自分の仕事で役立つ情報を売ったり買ったりして、みんな楽しんでいる。テレビCMで「休日仕事を忘れる」というキャッチコピーが昔ありましたけど、忘れるどころではない。それが意識の高いリーダーだけではなく、コミュニティに広くそういった空気感がある。これはすごいことだなと思うのです。

これはITエンジニアリング業界に特有の事情があり、事業のベースとなっているソフトウェアや開発基盤、開発手法などさまざまな技術そのものがオープンに情報共有されているからこそ生まれうるもので、ほかの業界で応用がそう効くものではない。そうおもっていたのです。

これは「DevRel Meetup in Tokyo #41 〜書籍の企画から執筆、編集まで〜」という勉強会のあとのツイートのやりとりですが、ものの見方が先ほど僕が書いたことの裏返しになっていて、それでハタと気がつくのです。

僕はずっと、ITエンジニアリング業界を仕事の対象として見ていて、しかし自分自身は隣接している出版業界あるいはWebコンテンツ業界にいて、編集者として働いている。エンジニアの方々の情報共有の素晴らしさについて近くで見ていながら、自分は何かしてるのか? 何か情報を共有して業界に貢献しようというはしないのか?

そもそも、自分のノウハウを気軽にブログに書いている編集者などはそれほど見かけない。企業としても、オウンドメディア的に知見を公開しているのは、毎日新聞社の校閲センターくらいではないだろうか。

mainichi-kotoba.jp

ただし、これも一般読者に対して「ことば」の面白さを啓蒙する意味が強く、編集者によって編集者のために公開されている編集者のメディアであるとか、ライターによってライターのために運営されているライターのブログといったものではなさそうだ。

なさそうなんだけど、そういったものがあってはいけないということはない。

編集者は自分が黒子だと考えていて、自分が表立って何かを発信することをあまり良いことだと考えていないようなところがある。無記名の記事をたくさん書いてきた職業ライターのひともそうなのかもしれない。記名で情報を公開すると、売名行為的に捉えられることがあり、つまらないツッコミを入れられることもある。それを嫌がって情報を公開したくないと考えることもある。それは面倒だ。

しかし、これはほんとに意識の持ち方だけの話なのではないかとおもっていて、そういった面倒なことがほんとに勝るのか? メリットはほんとうにないのか? 試しに、取材するときに必要なノウハウや、記事の構成について考えていることなどを情報共有しあってみたらどうだろう? という思いつきからアドベントカレンダーを立ててみたのです。

昨今は、ウエッブの変化によって、メディアやコンテンツ制作の業界も変わってきている。数年前に「バイラルメディア」というものが勢力を伸ばしてきたときには、編集者という職能はほんとうにウェッブでは不要になってしまうのではないかと思い悩んだりもしたけれど、いまはバイラルメディアの信頼性の底が抜けて、やはりきちんと書いたり編んだりすることは必要なのだと揺り戻しがおきているようには思う。ただ、きちんと書かれた嘘のニュースという別ジャンルの問題がこんどは起きている。

そういう変化するウェッブにおいて文章を書いたり編んだりしているのであれば、ライターや編集者をとりまく環境や技術も変わっているはずで、決して新しく書くことが何もないという状況ではないだろうと思うのです。

ウェッブの技術をどのように使っているのか? 旧来からのやり方や考え方はもう使えないのか? 情報をよりよく伝えていくために、IT技術であったり旧来のメディアであったりをどのように活かせるのか? 2020年代を迎えるにあたって、そういったことをオープンなやり方で語り合ってみてもよい時代なのではないかとおもうのです。

ということで「書き手と編み手のAdvent Calendar 2019」を立ててみました。

adventar.org

こちらからご登録ください。まだまだご参加をお待ちしています。