今年の9月は暑かった。9月までが夏で、10月から急に冬が来た。そんな9月に見た9つの展覧会の感想をまとめてお送りします。
- 小早川秋聲 無限のひろがりと寂けさと(加島美術)
- 没後90年記念 岸田劉生展(東京ステーションギャラリー)
- 塩田千春展:魂がふるえる(森美術館)
- コートールド美術館展 魅惑の印象派(東京都美術館)
- 円山応挙から近代京都画壇へ(東京藝術大学 大学美術館)
- 文化財よ、永遠に(泉屋博古館分館)
- 高畑勲展 日本のアニメーションに遺したもの(東京国立近代美術館)
- アヴァンギャルド画家たちの東京(板橋区立美術館)
- space | aspec 小牟田 悠介 Yusuke Komuta(PARCEL)
小早川秋聲 無限のひろがりと寂けさと(加島美術)
第98回 鳥取県・日野町/日南町へ 小早川秋聲のふるさとを行く旅 | 旅の紹介 | 出かけよう、日美旅:NHK
日曜美術館にも取り上げられた異様な戦争画《国の盾》が話題の日本画家、小早川秋聲の回顧展。戦争記録画だけでなく、花鳥風月から戦後の仏画までさまざまな作品が出ていた。
鳥取県は日南町美術館からの長旅を終え、作品が東京の加島美術に到着し始めました。荷を解き、検品の真っ最中。普段公開されていない貴重な「國之楯」の姿を一足早くお届けします。やはり本作、実物は強く胸に迫ります。小早川秋聲展は来週末からの開催です。
— 加島美術 / Kashima Arts (@Kashima_Arts) August 23, 2019
展覧会詳細→ https://t.co/IZvU5YoJcC pic.twitter.com/pcRka8LjtJ
従軍画家として兵士に寄り添った戦中の戦争画にはリアルさがあり、さらに《国の盾》にはファンタジーすら感じる。それは黒く塗り潰された背景によるものだが、もともとは桜が散り、頭部に光輪が輝いていた。国の盾となった一兵卒をまさに「軍神」として描いた作品だったのに、日本兵の戦死者を描かないという不文律により陸軍から受け取りを拒否されたという。
「従軍画家」小早川秋聲の回顧展が関東で初開催。陸軍が受け取り拒否した《國之楯》も展示|美術手帖
それが戦後、戦争画の作品集に収録される機会などがあり、社会情勢の変化にあわせて小早川自身により現在の形に修正されたという。おそらく戦意高揚のモチーフを消したかっただけだろうが、それによって戦死者は英霊でもなく戦争被害者でもない宙ぶらりんな状態になってしまった。それは、先の大戦と今の私たちの関係を象徴しているようだ。
▶ 椹木野衣 美術と時評87:表現の不自由・それ以前 –– 小早川秋聲、山下菊二、大浦信行の<2019年>をめぐって – ART iT アートイット:日英バイリンガルの現代アート情報ポータルサイト
椹木野衣さんの原稿を読んで、自分は知らないことが多いなとおもった。
没後90年記念 岸田劉生展(東京ステーションギャラリー)
近代の洋画界を牽引した岸田劉生の長くはない画業を制作年代順に検証する展覧会。最晩年の《満鉄総裁邸の庭》と初期の《B.L.の肖像》がよかった。もちろんボーイズラブではなく、バーナード・リーチという人の肖像画である。
重文の《道路と土手と塀(切通之写生)》を見るのは3回目か。良さがまったくわからない作品だったのだけど、何度も見て解説なども見聞きするとなるほどと思うし、同じモチーフの絵が並ぶ中にあると、確かにこの絵はとくに良いという感じになってきた。
それにしてもストイックな人だなとおもうのは、上のフロアではひたすら自画像自画像自画像自画像で、下のフロアは麗子像麗子像麗子像麗子像とほんとにくどいほど同じモチーフ同じアングルで描いている。
これも日曜美術館に取り上げられていた展示で、こう続くといかにも中高年が急に展示会めぐりをしていますというかんじが出てきたので、フードが付いたパーカーとかじゃなくポケットが多いベストなんて着るといいのだろうか。
塩田千春展:魂がふるえる(森美術館)
つい先日、天気がいいのでバスキアでも見るかと六本木までいったらすごい行列でチケット購入まで80分待ちと出ている。大人気だとおもったら、会期終了間近のこちらでした。
「塩田千春展」入館者数60万人突破&海外巡回のお知らせ | 森美術館 - MORI ART MUSEUM
写真撮影自由の展示では写真を撮りすぎてしまう問題というのがよくわかるブログを書いているのでよろしければお読みください。
コートールド美術館展 魅惑の印象派(東京都美術館)
マネ《フォリー=ベルジェールのバー》のための展示だとおもうのだけれど、これが人も多かったしよくわからないまま出てきてしまい、自分には素養がないのかという気持ちになる。
持ち帰った展示リストのメモをみるとモネ《花瓶》セザンヌ《カード遊びをする人々》ドガ《舞台上の二人の踊り子》ルノワール《アンブロワーズ・ヴォラールの肖像》あたりに印をつけていた。セザンヌいいですね。
マネ(19世紀パリで活躍した画家)の《フォリー=ベルジェールのバー》について答えの出ない部分を考えていると心が激しく楽しくなり、あまり意味のない思いが溢れてしまうのです。結局「好き」という言葉で処理しようとする自分が悔しいです。がんばります。これではいけない、自分を律して!#あやちょ pic.twitter.com/F8GQF6UplX
— 和田彩花 (@ayakawada) September 20, 2019
和田彩花が「それは、あなたを見ている全オタクの気持ちです」というツイートをしていた。
円山応挙から近代京都画壇へ(東京藝術大学 大学美術館)
前期の感想と同じになるけど、やはり円山応挙《松に孔雀図》はすごい。呉春はよくわからない。
たくさんの作品が入れ替えになったけど、全体を通しても前期の木島櫻谷《山水図》が最も惹きつけられたかな。泉屋博古館分館でやってた回顧展を見ておけばよかった。
【東京展】「円山応挙から近代京都画壇へ」@東京藝大は9月29日、無事閉幕いたしました。たくさんのご来場誠にありがとうございました。話題を呼んだ「もふもふ」たちや、保津川図、そして東京展ではお目にかかれなかった「郭子儀図」も京都展に登場します!ぜひ京都展へもお運びください。#okyokindai pic.twitter.com/ypinslHQXb
— 円山応挙から近代京都画壇へ【公式】 (@okyokindai2019) September 30, 2019
京都展めっちゃ行きたいじゃん!
文化財よ、永遠に(泉屋博古館分館)
公益財団法人住友財団による文化財維持・修復事業助成事業が2021年で30周年を迎えるのを記念した展覧会。住友家ゆかりの泉屋博古館(京都)および分館(東京・六本木)、そして東京と九州の国立博物館の計4会場で開催。
修理では、画面の折れ、絵具の剥離・剥落した部分や虫損による欠損、旧修理による悪影響を補修しました。
— 泉屋博古館分館 (@SenOkuTokyo) October 14, 2019
また、修理の過程で、10幅全てに裏彩色が施されていることがわかりました。#文化財よ永遠に 展、#泉屋博古館分館 会場でご覧頂けます。
※画像は「第五十幅 十二頭陀 露地常坐」 pic.twitter.com/12ABUhEqZd
六本木会場では鎌倉時代の仏画から近代までさまざまな絵画が展示されていたけれど、目玉はやはり前後期で5幅ずつ展示された狩野一信《五百羅漢図》で、とくに西洋画にならって陰影を付けまくった後期の作品群が圧倒的にすばらしい(後期は10月になって再訪したのだけれど)。
高畑勲展 日本のアニメーションに遺したもの(東京国立近代美術館)
昨年(2018年)4月に亡くなったアニメーション作家、高畑勲の作品制作に迫る展覧会。
▶ 高畑勲展─日本のアニメーションに遺したもの | 東京国立近代美術館
僕は高畑アニメのよい視聴者ではなくて、なぜか劇場で見たことがあるのが「おもひでぽろぽろ」だけだったり、日曜日の7時半はハイジでもヤマトでもなく「猿の軍団」を見てたクチなのだけど、作品もさることながら制作過程に感動するということを聞いて見に行った。行って良かった。
【美術館】
— 【公式】東京国立近代美術館 広報 (@MOMAT60th) September 25, 2019
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📢#高畑勲展 は10/6まで!
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「太陽の王子ホルスの大冒険」「パンダコパンダ」「アルプスの少女ハイジ」「火垂るの墓」「かぐや姫の物語」…。未公開資料も紹介しながら高畑作品の秘密に迫る展覧会を東京国立近代美術館で開催中!会期は残り10日です!https://t.co/rzSoP1mle8 pic.twitter.com/3w5pvKkYoL
これまた日曜美術館に取り上げられた上に、ちょうど朝ドラで関連の話をしてたとかなんとかいうNHK的な文脈で、会期末も近くて会場中が家族連れでごッタ返しており、これはとても無理と諦めかけたけれど、何度も行きつ戻りつ空いている展示を探し、音声ガイドの助力もあって、強力なクリエイターがコラボレーションしながら商業作品を高いクオリティで制作すること、初期はスケジュールに追われ、後期はよく知られるようにスケジュールなんてあるのかわからなくなってた制作の変遷を垣間見ることができた。
アヴァンギャルド画家たちの東京(板橋区立美術館)
リニューアルオープンした板橋区立美術館の所蔵品展。千葉市美術館との共同コレクション展は日本画だったけど、ここでは日本の近代洋画、それもシュールレアリスムや抽象画ばかりを展示。
収蔵品展で無料なのはいいんだけれど、行ってみて驚いたのが遠い。千葉市美術館とか町田市版画美術館あたりなら「まあ、東京じゃないしな」とショートトリップ的な心持ちになるけれど、池袋から東上線、とんねるず世代なので成増でもやぶさかではありませんが、考えてみたら初めて降りた。バスで揺られて、さらに徒歩。23区のはずれまで来た感ある。
バスを降りて徒歩10分弱ということだったけど、東京大仏ってこのあたりにあるのね。つい参詣したので20分くらいかかった。
【会期終了まであと2日!】
— 板橋区立美術館 (@itabashi_art_m) October 5, 2019
現在開催中の「館蔵品展 アヴァンギャルド画家たちの東京」は明日10/6(日)に最終日を迎えます。長谷川利行の大作《水泳場》の他、松本竣介、麻生三郎など、戦前から戦後にかけて活躍した画家の作品をお見逃しなく!ご来館お待ちしております。https://t.co/ZJo62vYOqo pic.twitter.com/wRLr7bdI29
展示は撮影不可でしたが、お目当てだった長谷川利行《水泳場》がやはりよい。松本竣介のいくつかの作品もよかった。井上長三郎《議長席》も好きな絵だった。
真新しい会場を後に、バスで高島平。いくつか丘を超えたりと起伏があり、そもそも美術館が谷筋の立地。東京の川はだいたいが北から南か、西から東に流れているという認識だったけど、このあたりは荒川の南岸にあたるので、南東から北西へと並行する谷筋が形成されていて新鮮だった。高島平もはじめてきたけれど陸の孤島みがさすがにハンパなく歴史があった。
space | aspec 小牟田 悠介 Yusuke Komuta(PARCEL)
高島平から都営線を乗り継いで日本橋馬喰町のギャラリーへ。ここも隅田川沿いなので川下りしてきたようなものだ。
初めて見る作家の個展で、素材と幾何学的な折りの関係が面白い。折り紙の展開図らしい起伏が光沢のある黒い素材に展開されているものなど、いろいろな確度から眺めておもしろかった。
帰りに、浅草橋交差点の以前から気になっていたカフェでアイスコーヒーとクリームパン。けっこういいお値段したけど、美味しいパンでよかった。