自分はエンジニアではないのだけれど(編集者です)、ITエンジニアの働き方やキャリア、あるいはエンジニア組織に関係した記事の制作を担当することも増えてきたので、基本的な知識くらいはちゃんと把握しておかないといけないのではないかとおもってそういう本を読んでいる。
考えてみれば、エンジニア向けのチームビルディングやリーダーシップの本が、それ以外の一般的なリーダー論などの書籍とは別のジャンルとしてたくさん存在していること自体がとても興味深い。
おそらく、ソフトウェア開発やプログラミングは基本的に個人的な技術の集積でできており、大きなプロジェクトは古典的なウォーターフォールのプロジェクトであれば、ほかの例えば建設やハードウェアの製品開発などの組織運営が適用されていたのだろうけれど、この20年でソフトウェア開発手法も大きく変わってきて、その新しい開発手法にフィットした組織のあり方を考える必要になって、そこからこういった本がたくさん生まれることになったのだろうなと理解している。
一般向けのリーダー論や組織論と違うのは、一般的に精神論で語られそうなところも、ITエンジニア向けの解説ではすべて再利用可能なメソッドとして落とし込もうという考えが強いようにおもう。それはITエンジニアリングの基本的な考え方が作用しているように思えるのだけど、それ故に自分のような非ITエンジニアが読んでも、自分の組織で活用できるメソッドを見つけることができるところがおもしろいとおもった。なにより「私達はマーケターという人たちが大嫌いです」というマインドをまったく隠してないところが素晴らしい。たいへん共感できた。
原初は2012年で、日本語訳は2013年に刊行。10年前ということだが、技術の話をしているわけではないので、話題そのものは古びていないように感じる。現在のチーム作りやリーダーシップの議論への基礎として読めるようにおもった。
ただ、技術的なディテールにおいて時代を感じるところがあり、それはとくに内容に関わるものではないとおもうけれど、そういう部分的な用語とかによって急に話が古色蒼然としてくるかんじがして面白かった。
- バージョン管理はSubversion
- 著者がSubversionの開発者ということもあるが、Gitは難しいみたいに書かれている
- GitHubは名前も出てなかったとおもう、サービスはもうあったはずだけど
- 社内チャットはIRC
- まだ世の中にSlackというものはなかったようだ
- 「頻繁に(たとえば毎週)リリースできるように」
- いまだと週一のリリースを頻繁とは言わないのでは
SlackとGItHubでCI/CDでops自動化みたいな世界がまだ来てなかったんだなということがわかって興味深い。
何よりSlackが一気に普及するまで、延々とIRCが使われていたというのはなかなかにすごいとおもう。ウィキペディアを見ると1988年の公開となっていて、実に25年は優にエンジニア向けチャットシステムのデファクトスタンダードを維持したことになる。一般にIT技術は移り変わりが激しいというけれど、いざこういうエンジニア向けのツールということになると、それこそ「職人の道具」のようにデファクトスタンダードの座はなかなか動かない傾向があるようにおもう。
ただ、こういったディテールは、この本の核になる「HRT」といった考え方などに影響を与えるものではないだろう。ただし、CI/CDやDevOpsを前提とした組織づくりという話になってくると(あるのかな?)別の本が必要になりそう。