4年前の2004年に出た夏目房之介さんのマンガ論。もう文庫に降りてるけど読んだのは単行本のほう。三部構成で、第一部が99年から03年に発表された時評的なマンガ論の集成。第二部が2002年ごろ出てたカップリングの復刻系雑誌「ジョーと飛雄馬」に掲載された評論とインタビューをまとめなおした「巨人の星」と「明日のジョー」論。第三部がマンガの海外進出と文化論への試論となっている。
- 作者: 夏目房之介
- 出版社/メーカー: イースト・プレス
- 発売日: 2004/09/01
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- 購入: 1人 クリック: 26回
- この商品を含むブログ (47件) を見る
なんといっても第二部が良い。作品論としてもおもしろかったし、70年代マンガ論という切り口で構成されていて、読み応えもある。関係者インタビューとしての資料性もある。第二部だけで120ページくらいあるし、ほかに割愛されたインタビューもあるというから、この「ジョーと飛雄馬」だけで一冊になっていても良いんじゃないかとおもった。そのほうが本の性格もハッキリするし。
実は「巨人の星」には今ではもう古臭いスポ根モノの元祖というイメージしかなかったんだけど、星空を見上げるシーンでの上辺断ち切りになった縦長のコマというような実験的な構成を見せられるとものすごくモダンに見える。最終回の、飛雄馬の最終投球シーンでの、飛雄馬を透して見える打席の伴は言われてみれば確かに目に焼きついている。何気なく読んでいたけど構築美といっていいくらいの完成度だったんだなあ。
- 作者: 夏目房之介
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2006/11/07
- メディア: 文庫
- 購入: 1人 クリック: 12回
- この商品を含むブログ (15件) を見る
読んで単純におもしろかったのは「ジョーと飛雄馬」だけど、考えることが多かったのは第三部の文化論的なところ。本論とはあまり関係ないけれど、ドイツで少女マンガが受け入れられていることを述べたくだりで
少女マンガを卒業した少女(※引用者注:ドイツの少女)がビジュアル系Jロック・ファンと化す現象もあるという。
という文章には、昨今の欧米におけるビジュアル系バンドの隆盛の事情を予見するものとしておもしろい。まず少女マンガ的な価値観が輸出されて、それに乗っかってのあのホモソーシャルなビジュアル系が受容されているという図式があるのだろうか。
NHKの音楽番組「MUSIC JAPAN」の夏休みのビジュアル系特集で、大集合のトークシーンでも欧米シーンの話はあってとてもおもしろかった。再放送があるそうなのでビジュアル系がそう好きじゃないひとも、トークシーンだけでも見てみるとおもしろいとおもった。
ナタリー - 「MUSIC JAPAN」ネオ・ヴィジュアル系祭が明日再放送
また、そのあとで
そもそも、少女(あるいは女性)に向けた、おもに女性の描く独特なマンガ・コミックの表現ジャンルが存在するということ自体、日本とその影響の強い東アジア以外ではみられない現象なのだ。
と書かれている点については、松岡正剛さんの著作に、11世紀初頭という早い段階で女性のための女性による文学表現が成立していたのは世界的にも日本くらいじゃないかといったふうのこと(もちろん源氏物語をさしてのこと)が書かれていたを思い出した。源氏物語から少女マンガまではずいぶん飛躍があるけれど、表現の内容としても一貫したものを感じるのがおもしろい。