ホンモノの「ゼロ円札」を見たことありますか? 僕はこの前、先月から今月にかけて毎週続けて3回、別の場所で見ました。
正しくは「零円札」で、ニューヨーク近代美術館(MoMA)にも収蔵されている赤瀬川原平の版画作品(オフセット・リトグラフ)。
Genpei Akasegawa. Greater Japan Zero Yen-Note. 1967 | MoMA
まるでネタ画像だけど、これは正真正銘の「本物」の零円札であり、説明は長くなるのでウィキペディアの「千円札裁判」などを見てください。発行当時は日本円の300円と交換していて、2016年の英国のオークションでは400万円近い値段で落札されたそうです。
ギャラリー ときの忘れもの : 特報!赤瀬川原平の「大日本零円札」がUSD 33,852で落札 - livedoor Blog(ブログ)
ツイッターで検索すると持ってる人がちらほら見つかっておもしろい。こちらが本物。
これが「本物の零円札」。「最初は300円で交換してたけど、のちにレートが変動して500円になった」とのこと。千円札裁判で有罪が確定したあとに赤瀬川さんがつくった作品。 pic.twitter.com/QbJtQYri91
— 内海慶一 (@pictist) 2016年10月10日
どんなものか見てみたいなら、東京駅のついでに向かいの東京中央郵便局(JPタワー)にあるインターメディアテクに行くとよい。ここで、旧ドイツの高額インフレ紙幣の隣で常設展示されている。
日本郵便株式会社と東京大学総合研究博物館が協働で運営する展示施設で、ほんとうの博物学あるいは本草学のイメージそのままの「博物館」というかんじだった。東京大学が開学(1877年/明治10年)以来蓄積してきた学術標本や研究資料などが常設展示されているが、なかにはアインシュタインが乗ったと伝えられる(=実際には乗っていない)エレベーターのかごが「伝・アインシュタインエレベーター」として展示されてたりして、ネタなんだか本気なんだかよくわからないが、そういう施設が、東京駅すぐ横のチョッピングモールの中にあって、行楽中の家族連れやらアジアからの観光客やらデート中のカップルやらがぐるぐると見て回っているのが文化的でよい。入場無料だし。
完全に余談になるけれど、東京駅前の広場は休日でも平日でも観光客やら通行人やらさまざまなひとが足を止めたりベンチに座っていたりとまさに文字通りの「広場」という風情が出ていて、よくテレビの旅番組などで見るヨーロッパの寺院前の広場にも似たような光景がアジアの片隅に生まれていて面白いなあとおもう。
閑話休題。3回もという話を切り出したはずなので、あとの2つについても書かなければならない。
ひとつは、千葉市美術館でつい先日まで開催されていた「1968年」展で、これはコンセプトとしても赤瀬川原平の千円札模型であるとかを正面から取り上げたものだけに、当然のように展示されていた。
▼1968年 激動の時代の芸術|2018年度 展覧会スケジュール|千葉市美術館
時代の雰囲気を感じさせるおもしろい展示だった。12月から北九州、来年には静岡に巡回するらしい。
1968年 激動の時代の芸術 | 全国巡回展情報 | インターネットミュージアム
この展示を見た翌週にインターメディアテクを初めて訪れて、こんな施設がこんな東京の文字どおりのど真ん中にあるのかと感心していたら、前の週に見たものがまた展示されてて思わず笑ってしまったのだ。
もうひとつは、竹橋の東京国立近代美術館で開催されている「アジアにめざめたら」展で、アジア各地のアヴァンギャルド・アートが集められているなかに、日本代表のような形で「零円札(本物)」が展示されていた。これはさらにその翌週に文化の日で無料だったのだけれど、あまり考えずに回ってたらあったので「へー」ってなった。
▼アジアにめざめたら:アートが変わる、世界が変わる 1960-1990年代 | 東京国立近代美術館
それにしても、零円札なんていう無駄なものを作るのはネタとしてありがちだし、実際に作ったひともほかにいるだろうけれど、それが美術館に「作品」として収蔵されているのは赤瀬川原平さんくらいだろうし、しかもこれほどたくさんの美術館に納まっているんだということが実感できて、なかなかおもしろい体験だった。