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表参道で働くシニアのブログ

その駅名はどの土地をレペゼン(代表)しているのか ― 高輪ゲートウェイ駅に思う

レペゼンってよく聞きますが、どういう意味ですか? - Yahoo!知恵袋

山手線に新駅ができるというのだけれど、駅名が「高輪ゲートウェイ」というので世間がざわざわしている。JRの担当者は自信たっぷりのようだけれど、世論は厳しいし、周りでも「いい駅名だね」なんてことは聞かない。

「過去と未来、日本と世界をつなぐ結節点としてふさわしい名。多くの人に愛され、浸透して欲しい」。4日の記者会見で、深沢祐二社長は駅名への思いを語った。

ダサいと不評でも…高輪ゲートウェイ、JR東が語る思い:朝日新聞デジタル

同時期に東京メトロが日比谷線に新駅「虎ノ門ヒルズ駅」を発表してて、こちらはおおむね好評。そもそも虎ノ門ヒルズは既存の虎ノ門駅からも神谷町駅からも微妙に遠くてアクセスがわかりにくかったこともあるので、駅も含めて一体開発したという経緯があるらしく、東京メトロで商業施設が駅名になるのはやはり三越が出資したという「三越前駅」以来という話だ。

「高輪ゲートウェイ」駅も再開発地域にできる新駅で、再開発コンセプトが「グローバルゲートウェイ品川」というのだからそう違いはない。公募の得票数を考慮しなかった選考過程も大きく問題視されているが、どうも当初から票数は見ないと言ってたらしいし、JRが中心となる再開発地域の駅名をJRの都合で命名するのは、それだけ考えればそうかもしれないという気もする。そもそも駅名が気に入らないから選考過程を問題視しているのであって、ステキな駅名になっていれば選考過程がわざわざ取り沙汰されることもなかっただろう。

漢字+カタカナの組み合わせが「キラキラネーム」と言われているが、すでにそういう駅はたくさんあって、92駅を調べたひともいる。

高輪ゲートウェイみたいな”漢字+カタカナ”駅を全部調べてみた【92駅】 - オーマイガー東京

JRの担当者も同じような認識のようだ。

JR東日本の広報担当者は、「ゲートウェイ」というカタカナ表記について、「JR武蔵野線『越谷レイクタウン駅』など既に他の駅名にも見られ、特別な表現だとは思っていない」と話す。

山手線の新駅名、「高輪ゲートウェイ」に決定 JR東「多くの意見把握している」 - 品川経済新聞

それどもやっぱり違和感はある。山手線の駅名としてふさわしくないかんじがあるのだ。この決定をしたすべてのひとは、日常的に「山手線」を利用していいないのか? という気がした。日常の移動がほぼ公用車とかタクシーとかで、東京都内の鉄道にはあまり乗らないひとが決めたのかな? とおもった。

武蔵野線に「越谷レイクタウン駅」があるのはかまわないし、日比谷線の「虎ノ門ヒルズ」にも違和感はない。東急がローカル駅前に建設する大型商業施設を駅名にしようが、移転してすでになくなってしまった大学名を名乗り続けようが、それはそれでありだろう。大江戸線の「新宿西口駅」なんていう狭いところに無理やり場所を確保しました感が名前に溢れすぎた駅もある。

ただ、山手線の駅で「高輪ゲートウェイ」はなしだよなっておもう。それは、サンリオやアドビが入居している「ゲートシティ大崎」というオフィスビルが品川駅の反対側の隣の大崎駅前にあり、地方から上京した営業担当者が「品川で新幹線を降りて山手線で隣の駅のゲートなんとかってビルだよ」って話だけ聞いて、大崎にたどり着けなくて困惑する事態を心配しているのではなく、単に格が合わないなとおもったのだ。

こういう言い方は失礼だけど、やっぱりメジャーな路線とマイナーな路線というものはある。それは知名度というだけのことではなく、メジャーな路線やメジャーな駅は、その名前に相応しいだけの役割というか、背負っているものへの責任感というか、古い言い方をするなら家柄というか「駅柄」というか、やはり格のようなものがあるとおもうのだ。

やはりその代表は「東京駅」であって、「東京駅はどこにありますか?」「東京」じゃ答えにならない。新宿駅だって鶯谷駅だって青梅駅だって青海駅だって東京にある。東京駅の所在地は丸の内だし、乗り換えの地下鉄はおもに「大手町駅」だ。じゃあなぜ「山手線丸の内駅」や「東海道新幹線大手町駅」ではなく「東京駅」なのか? それは、この駅が東京全体を背負っているからである。日本各地から漠然と「東京に行く」ことを目指すべひとに向けて「ここに来い」とアピールするために大きな地名を名乗っている。

大阪駅と梅田駅はほとんど同じ駅なのに駅名が違っていて不便だという話もあるが、それもそもそも駅名の役割が違うためだ。梅田駅は関西近郊にお住まいで大阪にはキタとミナミがあるんやということを知っている人に向けてその土地を代表している。一方の「大阪駅」は、関所の向こうの東えびすどもが「大阪」にいくべというときに目指すべき駅であって、だから大阪を代表する駅名になっている。

駅によっては、その土地でないものも代表することがある。集団就職で金の卵がたくさん降り立ち、石川啄木がふるさとの訛りを聞きに行ったという「上野駅」は、東北への玄関口として北に目を光らせている。フランスのパリ市には「リヨン駅」があって、リヨン市というのはパリから2時間くらいかかるらしいのだけれど、その駅がパリ市内にあるのはリヨン行きの汽車が出るからだという。その体でいうなら上野駅は津軽駅だし、新宿駅は箱根駅だし、渋谷駅は横浜駅だし、浅草駅は日光駅だといっても過言ではない。実際のところ、新宿はターミナル駅として京王・小田急をまるっと象徴しているし、池袋は西武東武の両私鉄と埼京線を従えているのでもはや埼玉なのではないかという印象もあるし、渋谷はほぼ神奈川じゃん。

東京では政策かなにかで山手線内への私鉄の乗り入れが規制されたこともあり、運良く両端が地下鉄乗り入れしているとかでもない限り、郊外からやってくると山手線のどこかのターミナルで乗り換え、目的地に向かう路線のターミナルまでぐるっと回って、また乗り換えるということがよくある。つまり山手線は、都心の移動においてハブとなるラウンドアバウトのような重要な役割と担っていて、山手線が止まると都心の交通網が大打撃をうける。山手線の各駅もそれにふさわしく、目白と新大久保を除く27駅がすべて何らかの路線への乗換駅となっている。

そこに「高輪ゲートウェイ」という再開発地域を象徴する駅名だ。彼は、自分が立地する「高輪」も「芝浦」も代表するつもりはない。山手線は多くの人にとって通勤・通学の足であり、日常である。駅名は、いま通過している土地の目安である。そこで急に「ゲートウェイ」なんて言われても、乗ってるほうとしては調子が狂っちゃう。

あくまで再開発地域を世界にアピールする駅ということになるわけど、ホントに? 「お前、乗換駅はなんなの? どこに行けるの?」と2つ隣の浜松町駅が聞いている。羽田空港に直行できて東京タワーを仰ぎ見る駅の前で「ゲートウェイ」を名乗れるのか。浅草線泉岳寺駅の乗り換えで嬉しいのは馬込の住民くらいではないのか。文士村へのゲートウェイなのか? 哭きの竜ならこう言うだろう。

あンた、背中が煤けてるぜ

ゲートウェイの背中にはひとりの乗り換え客も背負えない。やめなよ極道は。いや極道ではない。高輪ゲートウェイは泣きながら叫ぶ。

「おめえの旅客をわしにくれや、社長(JRの)にくれや〜」

「……鉄路の刻みはあンただけのものじゃない」

何の話かわからなくなってきたけど、高輪ゲートウェイはきっと改札を降りたところにどーんとスターバックスがはいってるような駅舎になるとおもうので、スターバックスがどーんとはいってそうな駅名としては相応しいかもしれないですね。

おまけ - 山手線の駅開業履歴

1872年(明治5年) 品川駅 官設鉄道(品川・横浜間)
1883年(明治16年) 上野駅 日本鉄道(上野・熊谷間)
1885年(明治18年) 渋谷駅・新宿駅・目黒駅・目白駅 日本鉄道品川線(品川・赤羽間)
1890年(明治23年) 秋葉原駅(貨物) 日本鉄道(上野・秋葉原間)
1896年(明治29年) 田端駅 日本鉄道
1901年(明治34年) 大崎駅・恵比寿駅(貨物) 日本鉄道山手線
1903年(明治36年) 池袋駅・大塚駅・巣鴨駅 日本鉄道山手線(池袋・田端間)
1905年(明治38年) 日暮里駅 日本鉄道
1906年(明治39年) 代々木駅 甲武鉄道
同年 原宿駅 日本鉄道山手線
1909年(明治42年) 烏森(新橋)駅・浜松町駅・田町駅 東海道本線
1910年(明治43年) 有楽町駅 東海道本線
同年 高田馬場駅・駒込駅
1911年(明治44年) 五反田駅
1912年(明治45年) 鶯谷駅
1914年(大正3年) 東京駅 東海道本線
同年 新大久保駅
1919年(大正8年) 神田駅
1925年(大正14年) 御徒町駅 山手線が環状運転を開始
1971年(昭和46年) 西日暮里駅
2020年(新年号2年) 高輪ゲートウェイ駅