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表参道で働くシニアのブログ

不染鉄「山海図絵」を見るので静岡までいってきた

1月31日まで渋谷の松濤美術館でやってる「廃墟の美術史」という魅力的なタイトルの展示を、去年の暮れに見てきた。

おそらく西洋の風景画と元田久治あたりの現代作家を対比させる展示になるだろうとおもっていたらその間にシュールレアリスムがあって、ダリやデルヴォー、その影響下にある日本の洋画が出ているなかで、異彩を放っていたのがまったくいつものアンリ・ルソー「廃墟のある風景」と、不穏で寂しい風景のはずなのに妙な穏やかさと生活感のある不染鉄「廃船」だった。

不染鉄については、2017年に東京ステーションギャラリーと奈良国立博物館を巡回した没後40周年展で話題になった日本画家ということだけど、ぼくはこの展示を知らなくて、別の機会に東京ステーションギャラリーで図録を見て「しまった!」と思ったのだった。

不染鉄之画集

不染鉄之画集

不染鉄はこれまで評価されないでいて、いま人に好まれているというのはわかるような気がして、色味の少ない、寂びた色合い、というよりむしろ錆びたような地味な風景は、あまり華やかさを求めたい気持ちの抑制されて長いいまの日本の心情にとてもマッチしているようにおもった。

その代表作である「山海図絵」が、先週末まで静岡でやってた展示に出てるというのをテレビで見かけて、最終日になんとか時間を作って遠征してきたのだ。

めがねと旅する美術展 |

静岡県立美術館は何年か前に若冲の「樹花鳥獣図屏風」を見に来て以来で、この屏風は今年のGWにも出るということなのでまた来るかもしれない。東京だとアメリカにある「鳥獣花木図屏風」のほうは何度か見れてるけれど、こっちはあまり来てないきがする。

閑話休題。それでその「山海図絵」だけど、期待したようにとてもよかった。目線が、水中・人々を俯瞰・富士山を水平と混在していて、海の中には魚がいるし、人々の暮らしはとても細かいところまで書かれている、手前は夏のようで、奥の日本海側は冬だ。日本海? つまり縮尺がおかしい。手前が伊豆の海で、中央に富士山、その背後もまた海で左奥がおそらく能登半島なのかなというかんじがある。

細かく見るとすごくリアリティがあるが、全体としてはありえない。大嘘の風景で、寝てるときに見る夢では距離感や時間の感覚が消失してることがあるけれど、まるでそんな絵である。そもそも富士山にさらに背景があるというのがすごい。地球は丸い。それでいて、どことなく雪舟の国宝「天橋立図」のような感想も持った。これは俯瞰の構図がそう思わせたのかもしれないけれど

不染鉄のほかには、高橋由一「山形市街図」になぜか目を奪われて、ずーっと見ていた。十一面観音ならぬ十六面少女像(そういう作品名ではないけれど)もよかった。静岡駅からのアクセスがめちゃくちゃ悪いことと、閉館時間の1分後に終バスが出てしまっていたことを除けば、すごくよかった。

江戸川乱歩「押絵と旅する男」をモチーフとしているためか、近世から現代までの日本作家の作品ばかりで、西洋の風景画がなかったな、ということは帰ってきてから気づいた。

めがねと旅する美術

めがねと旅する美術

ところで、ここには負けるもののやはり駅からのアクセスがしんどかった川越市立美術館でやっている相原求一朗の生誕100年の展示が、やはり錆びたような色合いでよかった。不染鉄が赤錆としたら、こちらは黒錆というような印象がある。

3月まで川越で、4月から北海道に巡回するらしい。